「押し入れに隠していたもの」映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
押し入れに隠していたもの
TVアニメが名作だとネットで話題になっていたが、観れてなかったので気になっていた作品。
前評判を見ると、TVの続編というよりは、総集編のようなものだということでむしろ好都合と思い、観ることにした。
ふつうに面白かったが、すごく面白かったか、というとそうではない。
「TVをリアルタイムで観れた人は”考察”で盛り上がってすごく面白かったんだろうな」と想像させる映画という感じ。
序盤ではストーリーの全貌が分からず、しかも時系列がわからないようなシーンが続き、わざと視聴者を混乱させる仕掛けだったと思われるが、それが面白さとして働くというよりは、単に分かりにくくなっただけ…。実際、5分くらいだとは思うが退屈に耐えられず寝てしまった。
話が分かり始めてからは面白くなったが、「本来の面白さ」のポテンシャルが引き出せていない感じがもったいなく感じた。
この作品の最大の仕掛け、「登場人物たちが全員動物である」ことは、小説でいえば「叙述トリック」にあたり、非常に面白い試みだと思う。
このミスディレクションとして、「お笑いコンビのコンビ名がホモサピエンス」になってるとか、「叙述トリック」であることに気づかせるヒントとして、「オドカワだけが人物を明確に区別できる」「肉親なのに種が違う」場合が出てくる、「擬人化されていない動物が出てくる」といったエピソードをさしこんでくる。
TVをリアルタイムで観てた人たちにとっては、こうしたエピソードが出てくるたびに、「叙述トリック」に気づいた人たちの考察で盛り上がったんだろうな、と想像できる。
でも、こんな大きな仕掛けを隠しているにも関わらず、「真犯人の正体」にオドカワの病気があまり関わっていないように思える。逆にいうと、オドカワの病気がなかったとしてもこの話は成立するように思える(ストーリーを完全に理解していないかもしれないが、あくまで映画版だけを見た感想として)。
オドカワの病気が判明したとき、「ああ! だからか~!」みたいな驚きや感動は無かった。オドカワの病気が推理小説的なトリックの中核を成すものだったら、このアニメの高評価っぷりに心から納得できたのだが…。
そもそもこの作品においては「名探偵」は登場せず、真犯人は「当てられて」出てくるわけではないので、「そういう話じゃないんだ」と言われればそうかもしれない。
この作品の面白さは、主人公であるオドカワや、その他の登場人物たちが、善人なのか悪人なのかサイコパスなのか分からないハラハラぐあいにある、ってことかも。そのへんは現実の人間に感じる感覚に近いので、リアリティを感じるところ。
オドカワが押し入れに隠していたものは何なのか、という謎をもっとうまく(分かりやすく、かつ巧みに)演出できれば、もっと面白くなったように思う。
ノラ猫なのであれば単なる優しい人だが、女児であれば誘拐犯になる。動物か人間かで全く変わってしまう。オドカワ自身がノラ猫をどうとらえていたのかも気になる。