「ちっとも怖くなかった」ハングリー 湖畔の謝肉祭 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
ちっとも怖くなかった
ホラー映画は人の心の闇をデフォルメし、増幅して表現する。そのことだけでも、考えてみればかなり怖い話だ。何が恐ろしいと言っても、人間ほど恐ろしいものはない。そして巻き込まれた人たちが常識的で大人しいほど、怖さは増すはずである。しかし実際の映画には、常識的で大人しい人たちはあまり出てこない。叫んだり暴れたりしないから間が持たないと思われているのだろう。
そこで本作品だが、被害に遭うのはあまり常識を弁えているとは言い難い若者たちである。当然ながら叫んだり暴れたりする。悲鳴というのは、聞くと不安と疑問が湧き上がりはするが、悲鳴自体は怖くはない。ホラー映画が怖いのは、登場人物に感情移入して、その恐怖を共有するからである。その点で本作品は失敗している。アホな若者たちにはあまり感情移入しないのだ。
そういう意味では、中田秀夫監督の「リング」は凄く怖かった。登場人物がごく普通の人々であり、日常的な場面に恐怖があったからだ。
本作品ではグロテスクな描写は短時間で済まされている。予算がなかったのだろうか。どうでもいい若者同士のやり取りのシーンを少なくして、人肉食のグロテスクな場面を多くしたり、登場人物をきわめて常識的な人々にすれば、少しは怖かっただろうし、見ごたえもあったと思う。
日本のホラー映画の金字塔である「リング」と比べるのは可哀想だが、本作品はちっとも怖くなかった。
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