劇場公開日 2023年1月13日

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「人生に無駄な経験は無い」モリコーネ 映画が恋した音楽家 shironさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0人生に無駄な経験は無い

2023年1月13日
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鑑賞方法:試写会

モリコーネの生涯を追うことは、そのまま映画音楽の歴史をなぞることでした。
名シーンの数々が大きなスクリーンに蘇る興奮!
映画マジックの裏側を知って、更に鳥肌が立ちました。
日本未公開映画のレアな映像も必見です!

モリコーネがトランペッターになっていたら、映画音楽の位置付けはずいぶん変わっていただろう。少なくとも音楽が映画に与える影響の重要性に気付くのが10年は遅れただろう。….いや。むしろモリコーネが映画音楽の進歩を早めたのか。

テーマを的確に捉えてそのシーンで観客が辿り着くべき感情をアシストする。
時には監督のプランよりも的確に。
アプローチも多種多様で、シーンの効果音まで担うような映像の動きとピッタリ合った音楽だったり、映像の印象とは真逆の音楽だったり。
例として出てくる映画のシーンがとてもわかりやすいので、ぜひ見ていただきたい!

モリコーネの映画音楽は、そのフレーズを聴くだけで映画のシーンがよみがえる。
なんなら、その1フレーズだけで映画全体の印象が鮮やかによみがえることすらある。
“印象深い” “印象に残る”ということは、観客がそこに何かしらの違和感や引っ掛かりを感じているからだと気づきました。
たとえば、とてもナチュラルにシーンに溶け込んでいる映画音楽は、観客の心理に影響を与えてはいるが強烈な印象としては残らない(←これも素晴らしい映画音楽と言えますが)
実験音楽やノイズミュージックを主戦場としていたモリコーネにとっては、違和感のバランスを取るのはお手のもの。
モリコーネにとって映画音楽は、自由に本領を発揮出来るジャンルだったということでしょうか?
だとしたら運命の出会いですが、むしろ自分がやりたい音楽を映画の世界に持ち込んだのかも??

映画のスタッフはみんな、監督の表現したいことを理解して理想に近づける為に最善を尽くす職人集団だと思っていましたが、モリコーネは表現者として監督ともセッションしていたのだと感じました。
実のところ映画製作の過程では、映画音楽に限らず様々なジャンルのプロフェッショナルが集まっていて、それらがみな要望に応える職人であり、要望を超えた自分の作品を作る表現者でもあるのだなぁ。
よく「映画は総合芸術だ」と言われるのが腑に落ちました。

モリコーネの驚くべき仕事の数々のなかでも一番の貢献は、映画音楽の作曲家のステータスを上げたこと。
映画音楽界で偉業を成し遂げ、後に交響曲でも評価されるまでになるのですが…
音楽に対する挫折やコンプレックスが、自分に与えられた映画音楽という仕事を価値あるものに変えようとする底知れぬパワーの原動力になったように感じます。
人生に無駄な体験など何一つない。
そんな風に思える素敵な映画でした。

shiron
shironさんのコメント
2023年1月23日

momokichiさん、コメント有難うございます!
素晴らしいシーンって、それぞれの分野での最高の仕事が相互作用を起こしてますよね。

shiron
momokichiさんのコメント
2023年1月23日

>様々なジャンルのプロフェッショナルが集まっていて、それらがみな要望に応える職人であり、要望を超えた自分の作品を作る表現者でもあるのだなぁ。

まさに!
「言われたように作ればいい」では我慢できない人たちによって
良い映画が作られるのですね。

momokichi