「夏の日の大いなる幻想と現実、定かでない未来」夏へのトンネル、さよならの出口 Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
夏の日の大いなる幻想と現実、定かでない未来
原作は読んでいません。
◉恋よりトンネルの正体が大事
恋を実らせるためにSFの筋書きがあったのではなく、SFの物語の実りとして恋が生まれた。気恥ずかしいが、夏の日の軽い想い出が生まれた感覚。
ただ、取り戻せるものと、失う時間の比率が気になる。それを若者二人が、綿密な調査と検証を重ねていくのがいい。全体はファンタジックに、細部は事実っぽく。結局、トンネル内の数秒が、外での4〜5時間になることを掴む。
◉トンネルは魔窟だったのか?
華奢なくせに乱暴で、自分本位な花城あんずは転校初日にクラスの女子を殴る。しかしクラスを巻き込んでの話にはならない。カオルとあんず二人だけで成立する物語がひっそりと始まる。世間からは孤立して、傍観者のように生きている二人が、ウラシマトンネルに狙いを定めて共闘関係を築く。そしてトンネルに向かった。
樹々に隠されたトンネルは時を歪ませ、願いを叶えるマジカルな空間。紅葉が散り敷くトンネルの中には妖が棲んで、あんずとカオルを捉えてしまった。トンネルは、とにかく目を離せば消えそうに儚い幻想で形作られていて、この世ならぬほど綺麗でした。このトンネルや、線路に繋がる雑木林の描写など、作画の素晴らしさをストレートに味わいました。
◉ごめん、あたしは現実に生きるよ
だがしかし、あんずとカオルの願いの質は、大きく違っていたと私は思います。死んだ妹を蘇らせてと言うカオルの願いは、現世を基準に考えたらば、当てのない願い。一方、捨てられた原稿を返してと言うあんずの願いは、現世を見たもしかしたらの願い。妹カレンが生き返った後は、どんな話になるか予測出来ずに不安だった。
カオルの願いよりあんずが先に願いを成就する。そして、ウラシマトンネルが返してくれたマンガに編集者が反応して、ここであんずはトンネルの探索から身を引く。私は自分のマンガが認められただけでいいの…とか言ってカオルに同行するのではなくて、漫画家の道を歩き出す。現実がファンタジーに打ち勝ってしまった。一方、カオルは戻れないであろうウラシマトンネルの深部に、単独で向かう。
この突き放され感を盛り込んだことが、ただのファンタジー以上の深みを生み出したと感じました。おとぎ話はそうザラには生まれないから、素敵なのだと思うのです。
◉絶対にカレンを取り戻す
ウラシマトンネルの深部には、いつもと変わらない日常があった。夕暮れ、カレンとカオルが言葉を交わしている。だが妹はまるで女神のような思いを兄に向ける。
彼女の願いは、皆が笑って幸せに暮らせることだった。少し神様すぎないか? と思ったのだが、本人がそう言うんだから仕方ない。
あんずと年を経たカオルが再会するとしたら、映像的にどれほど衝撃的なものになるか、不安だった。でも妹の力で、さほどのギャップなく、二人の高校生は会える。携帯を繋いだのは、カレンの魔法と言うことでいいんですよね。
現実がファンタジーを乗り越え、ファンタジーを吸い取った現実が、二人の運命を決めた夏の日々。
入場者特典の小説を読んで少しホッとした。ちゃんと未来は進んでいた。制作の方々の優しい気配り?
共感そしてコメントありがとうございます。
いつもながら深い洞察と綿密な描写。
改めて内容を反芻させて頂きました。
ジャケット写真のブルーの三角形のトンネル。
淡い儚さをイメージしていました。
映画を観たら、あんずの強い性格・・・ファンタジーアニメのヒロイン・・・
こんなに強くて大丈夫?って思いつつ頼もしかったです。
Uさんのレビューのお終いに、2人が16年後に再会した後のことのフォローが
あるのですね(配られた小説の中に)
それを聞いて安心しました。