「意欲的な挑戦〜やや失敗〜作」すずめの戸締まり ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)
意欲的な挑戦〜やや失敗〜作
閉じた世界のボーイミーツガールにこだわってきた新海監督(いい人)が、前作「天気の子」で踏み出した一歩をさらに進めようとする意欲作に思えた。
311をはじめ災害が頻発する昨今の日本、とりわけその被害者が抱える痛みに光を当てようとした、のはわかる。さすがの真面目さだし、そこにロマンチックなお伽話要素も入って、既定のボーイミーツガール路線も健在。
ただ、いかんせん「災害=みみずを封じる」という大状況の解消と、不可逆的な喪失を抱えながらそれでも前を向いて生きていくっていう個人のドラマは割と別物。というか視点が真逆なので、たぶん両立するには非常に高度な技術が必要。
残念ながらその技術という点では今一歩だったんではなかろうか。終盤にかけて、いくらなんでも叔母さんや猫の動きがご都合すぎないか、と思う場面が何度かあった。
というか近年のハリウッドゴジラとか見てても、そもそもの設定として無茶がすぎるってことなんだろう。
そこでふと、ヒントになると思ったのはロメロのゾンビ。比重としてはすずめ個人のドラマがメインだろうから「変えられない悲劇的な状況」はひとつのバックグラウンドとして置いておき、根本的な問題は解決しないけど、個人としてはそれでも希望はある…というオチにすることはできたんじゃないのか。
それってつまり、前作「天気の子」で出した答えが正解でしたって話になってしまうけど、現実の被災者を想定してる以上、いい人の監督としてはあくまで希望あるメッセージを残したかったのかも。
確かにラストの場面は感動的だったけど、ドラマとしては余韻が弱かったかなぁ。
あとは言っても詮ないけど、音楽の流し方が過剰な気がする。作り手に気を使ったのかも知れないけど、結果的にはもうちょっと引き算のがみんなが得すると思う。
けっかくならジブリに新海誠をリクルートすればよかったのに、と思うくらいには既視感のあるヴィジュアル(ちょい旧エヴァ)が出てきたりひて、ひさびさに「ほしのこえ」が1人DAICON フィルムと呼ばれていたことを思い出した。タランティーノ的なリミックス感覚は逆に、ヴィジュアル優先ではなく、既存イメージのパッチワークを使ってでも語るべき物語が作り手の中にあった、ということなのかも。