「風化させないために。。」すずめの戸締まり ゆきさんの映画レビュー(感想・評価)
風化させないために。。
新海誠監督が、自身のネームバリューを使い、多くの人に観てもらえるよう、敷居を下げ、間口を広げ、そして敢えて挑んだ作品だったと思いました。
そうは感じていたものの、どうしても踏み出せず。。
私は映画は良く観る方だと思いますし、新海誠監督作品はリアタイで劇場で鑑賞してきました。
新海誠監督の新作だから!と、普段映画を観ない友達も鑑賞していましたが、私には無理でした。観られる時が来たら、と。自分のペースで、と。
しまっていました。
あれから12年以上経ちました。
まだ、12年なのか。
もう、12年なのか。
毎年3月11日の午後2時46分になると、黙祷し、被災した方々へ思いを馳せています。
今回おかえり上映という事で鑑賞しました。
賛否分かれた本作でしたね。
指摘されていたすずめと草太の急過ぎる関係性について。
幼い頃のすずめは常世で草太と母
(と思っていたが、12年後の自分自身)と会っていた。
すずめも被災者で、常世に入り込んでいたのを、2人によって現世へ送り返された過去があった。
その時の出会いがあったからこそ、坂道で草太と会った時、潜在的に「母に繋がる人=自分を救ってくれる人」と感じ、行動を共にしたんでは、と推測しました。
一見サイコパスに見えるダイジン。
確かにあの発言や行動は批判的に捉えられても仕方がない描かれ方にも見えました。
しかし、要石としての役割を全うし
ずっと1人で頑張って来たダイジン。
すずめによってそのお役目から解放された時、自分に自由をくれたすずめを好きになるのも、草太を邪魔に思うのも理解できました。
「うちの子になる?」は嬉しかったと思う。
そしてこの発言は環が幼いすずめにかけていたそれと全く同じセリフだ。
ダイジンはすずめから草太を奪う。
幼いすずめは環から自由と12年分の人生を奪う。
ダイジンとすずめは似ている描かれ方だと思いました。
2人共無意識に無邪気に大切な人の大切なものを奪ってしまうという共通点があった。
子供って無垢過ぎると逆に残酷だったりします。
「扉を閉める」という目的の為に進むロードムービーの側面の他にも、すずめと環の物語でもありました。
ダイジンに導かれるように椅子にされた草太とすずめは協力し、各地の後ろ戸を閉じていく。
愛媛でチカと仲良くなり宿に泊めてもらう。
神戸へ帰る途中のルミに車に乗せてもらい子守とスナックの手伝いをする。
ダイジンが訪れた場所は人々が集まり活気づく。なぜなんだろう。ダイジンは福の神のような存在なのかとも思えた。
そしてだんだんと寝起きが悪くなっていく草太に嫌な予感がしていた。
後に要石となってしまう事の伏線だったのかな?
東京に戻るとこれまでとは比べ物にならない巨大ミミズの出現に、草太は自らが要石となる覚悟を決める。
すずめの手によって巨大ミミズに、要石となった草太を刺す。
巨大地震は食い止められたが草太を失ったすずめ。
草太を取り戻す為、すずめが唯一通る事のできる岩手の実家の扉を探しに出発する。
芹沢のオープンカーで、環とダイジン、サダイジンと共に。。
途中のSAでサダイジンに乗っ取られた環と喧嘩になるシーンは辛かった。
お互い大切な存在なのは分かりきっているのに、でも口から出たその言葉も本音だった。
すずめの心が震えたつ。
何としても草太を救う!
被災した過去の記憶を思い出し、サダイジン、ダイジンと共に巨大ミミズに立ち向かう。
ダイジンが再び自分が要石になる事で草太をすずめに返してくれた場面は強く心に残った。
ここをかわいそうと見る声もあった様ですが。。
ダイジンはすずめと行動を共にして行く内に心変わりして、自ら選んで要石になるお役目を引き受けてくれたと思っています。感謝しかありません。
悲しい震災があった事は事実です。
残された人々は、人と関わり、時間をかけて、その傷を超えて行かなければなりません。何があっても、その時が来るまでは生きていかなくてはいけません。
三本の脚でも立っていられる。
「ただいま」「おかえり」を言える、聞ける、そんな日々を大切にしたい。
子も成長し、だんだんと素っ気なくなる「ただいま」だが、その声を聞ける事の幸せを噛み締める。
私の「おかえり」はいつまでも変わらない愛だ。
大変な震災を経験され、大切な人や家、全てを失った方々からすると、耐えられない作品だったかもしれません。
作中に流れるアラート音には私も動悸が止まらなくなりました。
本作は、これまでも災害をテーマに描いて来た監督作品と比べられないほどに、東日本大震災をかなり直接的に描いています。
「死ぬか生きるかなんて運だ!」
なんて高校生のすずめに言わせるほど、その死生観をも歪めた震災だったとわかります。
人々の心理描写が深掘りされている事で、まだ観るのが辛い方も多いだろうと推測します。
でも私は監督の、未来への希望を見出してほしいというメッセージを受け取りました。
苦しんでいる方々のショックやトラウマも戸締り出来たらいいのにと思いました。
1日でも多く笑える時間が訪れますように。