「「失う心の痛み」の普遍性に肉薄」すずめの戸締まり image_taroさんの映画レビュー(感想・評価)
「失う心の痛み」の普遍性に肉薄
新海誠がメジャー化した「君の名は。」「天気の子」のような、大衆に向けて広く訴える作品(それなりに楽しんだことには違いないが…)より、良い意味で偏りもある強い作家性を発揮した過去の作品(個人的には好きな作品もあれば嫌いな作品もある)の方に注目してきたし、その中でも「言の葉の庭」こそが至高だというのが私の持論だ。メジャーとなって大衆に訴える方法も掴んだいま、元々の強い作家性を発揮し、大衆に迎合せずとも大衆を強い引力で巻き込む作品を志向して欲しいと思っていたところに本作が登場した。
正直に言おう。初見の時、クライマックスで私は涙を堪えることができなかった。この涙は、純粋にこの作品に揺さぶられたからか、はたまた震災の記憶(私なりに強烈に焼き付いている体験ではあるが、それでも私はそれを東京で体験したに過ぎない)を刺激されたからなのか…いやきっと両方だろう。少なくとも、クライマックスであの扉の向こうで出会った幼いすずめから発せられたことばに酷く心が掻き乱された。そして、(ここがこの作品の凄いと思うところなのだが)この鋭く伝わってくる幼いすずめの心の痛みが、「震災による喪失の痛み」というラベリングを突き抜けて、「大切な人を突然失う痛み」という極めて普遍的なものとしてストレートに伝わってきたような気がしたのである。東日本大震災という強烈に焼きついた現実での出来事をモチーフに、それに尽きない普遍的な人の心の痛みに肉薄するというかなりの離れ業を、こんな形で観ることになろうとは正直思っていなかった。
やはり、新海誠はオーディエンスに媚びることなく、自分のこだわりに従って作品に取り組んでこそ真価を発揮する。本作はとても素晴らしい。