「私たちは誰でも、心の中に「傷ついた自分」がいる」すずめの戸締まり Immanuelさんの映画レビュー(感想・評価)
私たちは誰でも、心の中に「傷ついた自分」がいる
過去にしっかりケリをつけて、前に進もう。
新海監督のメッセージは、そういうことでなかったのかと推測します。
要するにこのストーリーは、すずめの「インナーチャイルド」を癒す旅であったということです。
「インナーチャイルド」とは簡単に言えば幼少期〜思春期にかけてのネガティブな記憶・経験によって傷ついたままの自分のことで、それによって心が傷つき不安定なままだと、その後の人生に大きく影響を与えるといわれています。
すずめにとっての「インナーチャイルド」は、震災で母を失うことによって、傷つき不安定なままでした。日本人も今も、東日本大震災というネガティブな記憶・経験によって傷つき不安定なままなのかもしれません。
すずめも日本人も、そろそろ、それにケリをつけないと、いけないのです。
インナーチャイルドにとらわれたままだと、生きづらさを抱え自由に生きられなくなると言われています。過去のネガティブな感情を癒し・手放すことによって、新しく人生をポジティブに歩み始めることができるようになります。
「扉」とは「過去の記憶・経験」であり、それが「開いたまま」だと、そこからネガティブな感情が「ミミズ」のように湧いて来て自分の人生に悪影響を及ぼします。
ですから、そこに「鍵をかけて」・・・つまりケリをつけて手放すことによって、新しく人生をポジティブに歩み始めることができるようになります。
すずめは、過去に戻って「母の死を認められない」自分を肯定し認め、その上で「大丈夫」と再び過去に送り出します。それは、ありのままの母を喪失し傷ついた自分を認め受容し、その上で過去を手放し過去に返したということです。
そして、「扉」を閉めました。
私たちも誰でも、心の中に「傷ついた自分」が住んでいます。
でも、そこから目を背けて押し込んでしまうのではなく、一旦ケリをつけて「扉」を閉じなければなりません。東日本大震災で傷ついた日本人の過去の心の傷にもそろそろケリをつけ、前を向かなければならない時なのではないでしょうか。
それは、忘れてしまう・無関心になるということではありません。
すずめが「扉」を閉じる時、必ずそこに暮らしていた人々の声を聞きます。押し込んで封印して忘れてしまうのではなく、受け入れ受け止め、その上で今を生きている自分は前を向く。
そうやって生きていくんだ、ということです。
この映画はそういうメッセージを持っている映画だと、私は感じました。
どんな映画でもそうですが、あらさがしをすればいろいろあらはあるでしょう。でもそれは、制作時間や制作費や色々な制限があるから、すべてを語り尽くすことはできないし、もしできたとしてもそれは語りばかりのつまらん映画になるでしょう。
見る人の想像力をかき立てるような映画が、良い映画であると思います。
深いことを考えなくても、十分にエンターテーメントとして楽しめる映画であると思います。
でも、深読みすれば味わい深い。そんな映画は良い映画です。
前の作品を見て、深海監督はやや迷走しているのかなと余計な心配をしていましたが、しっかりと着実に進んで良い映画づくりをしている様子を見て、安心した次第であります。
今を生きるすべての人に見てもらいたい映画です。
これからも期待しています。