「違和感と戦うための大きな希望」すずめの戸締まり GOさんの映画レビュー(感想・評価)
違和感と戦うための大きな希望
本作品は
①分かりやすさ(飲み込みやすさ):
前半が楽しいロードムービーで、後半は感動ストーリーという構成
②数々の深刻な違和感:
地震が防げる設定、ダイジンの扱い、共感が難しいすずめの動機付け、などなど
を同居させている。これは、私は監督の意図したものだと思う。つまり、この物語を映画館で体験した私たちは、その鑑賞後に「深刻な違和感」と戦わないといけない物語になっている。①で多くの人たちにリーチし、②という呪いを植え付ける。それも、どの違和感と戦わなければならないのか、については、ひとそれぞれの人生経験によって、戦うべき違和感が違っている。それが、考察動画の多さ、賛否両論の激しさ、否定派の否定度合いの強さに表れていると思う。でもこの「深刻な違和感」を多くの人の心にインストールできたこと自体が、この作品の凄さの本質だと思う。そしてもちろん我々は、本作品に呪われるだけではない。大きな希望も渡される。
あの震災に対して、私たちは「災害とはそういうものだと納得する感覚」と「強烈な違和感を感じ続け、納得しない感覚」の両方を抱え続けているのだと思う。後者の感覚は考えないようにしている場合も多いだろうけど、感覚自体が無い人なんて日本人の中にはいないのではないかと思う。でも震災に対する強烈な違和感に対して、「分かりやすい悪者」を作り出すような安易な方法ではなく、私たちの中でちゃんとした落としどころを付ける必要があるはずだ。「納得が一番困難であるはずの震災孤児」であるすずめだって、(私たちにも腹落ちする)ちゃんとした落としどころを見つけたのだから、私たちにできないはずはない。そういう「私たちそれぞれの、あの震災の戸締まり」ができるかもしれない、という可能性について大きな希望をくれる映画だったのかなと思いました。すくなくとも私は、そういう希望をもらいました。