「違う意味で泣いてしまった」すずめの戸締まり 絃さんの映画レビュー(感想・評価)
違う意味で泣いてしまった
酷評です。予めご了承ください。
新海作品は『言の葉の庭』と『秒速』がとても好きで、感情の丁寧な描写と映像美に何度も心打たれました。
なので前提、新海作品は大好きです。
ところが『君の名は』から、ストーリー重視に切り替わったのでしょうか、なぜ好きになったの?と取って付けたような恋愛に疑問を感じることが多くなりました。(全て映画館での鑑賞です)
そして今作品、まずテレビで予告を見ましたが、あのたった12分でさえ、あまりの展開の速さに映画館での鑑賞を迷うほどでした。
しかしやはり好きな監督だからと映画館で鑑賞しましたが、正直悲しくて残念でならないです。
まず、この作品には『すずめの成長物語』と『扉を閉じる旅物語』の2軸があると思いますが、そこがうまくバランスが取れていなかったなと思います。
すずめがおかあさんを亡くしたことをトラウマ(?)と感じているとはあまり思えず、後半のすずめ同士の掛け合いも何を意味しているのかわかりませんでした。
そして道中出会う人たちにたくさん優しさをかけてもらうのにも関わらず、『そういうシーン』であるだけで、特にすずめの心が動く描写があるわけではなく、どう言う気持ちで見ればいいのかわかりませんでした。
もしこれがもともと叔母さんとの関わり方に悩んでいて、道中で会う人たちにこんな優しさもあるんだよ、と教わってすずめの考え方が変わっていく、というのならわかるのですが…。
そして草太との恋愛模様は本当に突飛で、なぜ惹かれあったのかよくわかりません。
「草太さんのいない世界の方が〜」の台詞も、なぜ?の疑問でいっぱい。
そして最後の常世での戦闘シーンは後者の『旅物語』の終盤としては納得できるものの、『成長物語』としてはあまりに突飛でかけ離れすぎていて、なにをしているのか?と思わざるを得ませんでした。
正直神物語系は好きなので、この2軸を別個の物語で作り上げていたら、とても素敵だったんじゃないかなぁと思います。
そしてなにより、なぜ3.11を題材にしたのか。
新海誠本で覚悟を持って題材にしたと書かれていましたが、とてもそうは感じられませんでした。
ただ「事象」と「場所」として引き合いに出されただけのように感じてしまいました。
すずめは覚えていないから仕方ないのかもしれませんが、当時の様子や3.11に対する人々の想いを、せめてたまきさんがどう思ったのかとか、3.11をなぜ閉じ師達は止められなかったのかとかを書いて欲しかった。
ただ3.11ですずめのおかあさんが亡くなったんだよ、悲しいでしょ、なんていう風に出してはほしくなかった。
少なくとも私はそう感じてしまった。
そこからは震災の悲しみで涙が止まりませんでした。
(被災者ではありますが、被害はそこまでありませんでした)
終始置いてけぼりの感情と、わからないテーマに、感想すら出てこない感じで、
わからなかったからもう一回見ないとと思ったのは初めてです。
好きな監督なだけに、本当に残念でした。