劇場公開日 2022年11月11日

「エンタメに振り切った分、 “新海誠らしさ”がちと減った?」すずめの戸締まり asukari-yさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5エンタメに振り切った分、 “新海誠らしさ”がちと減った?

2022年11月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

「天気の子(2019)」以来3年ぶりの新海誠作品。もちろん自称“新海誠ファン”の自分としてはマストに観るべき作品であり、非常に楽しみにしていた作品。

 スタートから魅せる絵の美しさ、特に海を背景に主人公:すずめが自転車に乗って坂を下るシーンの美しさに、「ああ、新海作品だ」と最序盤でありながら感嘆してしまう。やはり現代日本において最高の画力を持った作家だな、てことを3年ぶりに再認識するんですな。
 この作品では廃墟になった箇所に災いをもたらす「扉」があり、それを締めていくストーリーなのだが、その過程で「その場所の人の記憶を聞く」というのがある。それは「この場所を忘れないで」「あったことを覚えていて」というような感覚だ。その「あったことを覚えていて」が一つキーになるんじゃないか。“地震”を作品の一部、特に3・11を思い起こさせる。時代が変わり、事は風化していく。しかし大事なことまで風化しないでほしいという訴えもあるのではないか。3・11を経験したからこそ、この映画はそのように自分は捉えたんです。またこの作品には“人の優しさ”が流れている。突然の出来事に巻き込まれ、いきなり旅することになった少女を、その地域で出会った人たちが助け仲良くなる。前作では日本の閉塞感・人々の無関心さを描き警鐘を鳴らしていたと私は思っている。今回は逆で、一期一会の出会いを大切に人にやさしくするという、今の日本が忘れかけそうなことを少し思い出させてくれる。
 だが、“違和感”が少し漂う。上映中はのめり込んでしまった分気にしてなかったが、途中で「あれっ?」と思う。しかし中盤までにはわかる。

エンタメに思いっきり振ったな。

 「君の名は(2016)」以降、エンタメ要素が強くなっている感じはある。それ以前の作品を思い返しても「星を追う子ども(2011)」が一番強かったかなと思うぐらいだが、本作は間違いなく新海作品史上最高のエンタメ作品になっている。また最近の新海作品にみられるティーン要素が本作でもふんだんに盛られている。今年33の自分には少し騒がしいのは年のせいか。でも過去作やったら今でも観やすいと思ってしまうのだが・・・。そう思いながらふと気づく。

今回、“新海誠らしさ”がないな。

 自分の思う新海誠監督とは、心の機微を上手く捉え、それを得意の画力で、時には音楽の力(歌の力)を最大限に活用して描く。だからこそクライマックスにとてつもない感動に包まれ、「すげー」となる。そんな現代でも稀有な作りができる監督が自分の印象。
 しかし、それが本作では隠れてしまっている気がする。もしかしたら作風が変化してきているのかもしれない。しかし、それが一番の違和感やったんやろう。それでも、やはり絵の美しさと、エンタメに振ったとはいえ楽しむことができたこと、最初に伝えた「忘れていきそうな大事なこと」を覚えていてとのメッセージ性。この3点が良かった。もしかしたら、もう一度観れば違う視点から新たな良さが発見できるかも・・・。

でも、やっぱ物足りない。新海誠監督はもっと静かに、機微な動きを敏感にとらえる作風が自分は好きなんだ。「秒速5センチメートル(2007)」「言の葉の庭(2013)」のように。次回作は3年後かな?次こそは・・・、と願ってみる。

asukari-y