劇場公開日 2022年11月11日

「私は、すずめの明日」すずめの戸締まり しーげんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0私は、すずめの明日

2022年11月16日
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鑑賞方法:映画館

正直に言います。
観終わった直後は“何かが違う”という戸惑いが大きく、作品を咀嚼できなかった。
しかし戸惑いを言葉にすることで、今作に込めた監督の思いに触れるにつれ、描きたかったメッセージと作品の良さが見えてきた。
「過去を抱きしめ今日を明日を生きていこう」と。

違和感の正体を明らかにするために、いい意味で期待を裏切られた点、過去作より薄まっていると感じた点を列挙してみた。
・10代の主人公(鈴芽)が、どんな世界よりも大好きな人(草太)と過ごす結末を選択すること(今作のポイントはここじゃないはず)
・楽曲ありきの構成
・空を中心とした豊かな自然描写
・モノローグやナレによる説明
・私たちが生きる現実世界と地続きでありつつもパラレルなファンタジー(パラレル感が小さく現実世界とのリンクが色濃かった)

反省点は、楽しみにし過ぎて事前情報を仕入れすぎたことである。笑
震災を題材に日本列島を北上するロードムービー。
ひょっとして「3.11」を絡めるかもと予感していたが、冒頭シーンの時系列が判明した時と草太が海岸線で凍りつく描写で、確信に変わった。
作品の中心線を念頭に置いていたことで、ストーリーを純粋に楽しめなかったのが歯痒い。。
なおかつ、震災文学(新海監督も用いた表現)として個人的に不動の地位を獲得している『監察医 朝顔』を越えられなかったのも正直な思いである。(実写とアニメを同じ土俵にあげてはいけないが…)

ここまでモヤモヤする投稿を書き連ねたが、ひとつ確かなことがある。
それは、全世界に配給される作品で日本の姿を伝える意義と新海監督の勇気は称賛に値することだ。
監督自身、エンターテインメントのなかに未曾有の災害を取り込むことが議論を巻き起こすことは折込済だろう。
それでもなお果敢に挑み、鈴芽に大事なことを気づかせる構成は秀逸だった。

賽は投げられた。
新海監督が相当な決意と覚悟をもって作り上げた本作の評価は、観客に委ねられている。
前提を取っ払いストーリーを掴んだうえで、それを確かめる2回目を観に行こう。

しーげん