「かしこみかしこみ…」すずめの戸締まり aMacleanさんの映画レビュー(感想・評価)
かしこみかしこみ…
今度は地震か…。少々心配したものの、天災がもたらす非日常を、日常に変えていく人の強さを描いた、良い物語だった。
新海監督の一連の作品に共通した、八百万の神様への信仰に根差した物語に人々が共感するのは、日本人としての連帯感があって嬉しいものがある。原始的、アミニズムでありながら、未だ受け継がれる日本の伝統的感覚が、エンタメとして受け継がれていくわけだ。
地震、火山、台風、津波などなど、災害のオンパレードである日本列島と、こうした自然を畏れながらも、それを受け入れて日常に取り込んでいく人間たちの逞しさが、物語の底流にあるところが、観ていて安心感がある所以ではなかろうか。
鍵を閉めるときの呪文として、「かしこみかしこみ…」と唱えられる。「畏れながらも」といった意味だが、八百万の神に表象された自然に対して、感謝と畏敬の念を持ちながら「勝てないことは分かってるが…」それでもなんとかお願いしたい、という人間の情念か詰まった、素晴らしい言葉だと思う。
自然災害で、多くの犠牲を払いながらも築いて来た日本の社会で、作品中随所で描かれる平穏な日常。その象徴としての「挨拶」が、クローズアップされ、随所で差し込まれていて、これがとても印象深い。「おはよう」「おやすみ」「こんにちは」などなど。
その中でも、今回のキーフレーズは「いってきます」「おかえり」だろう。冒頭、すずめが家を出る時の何気ない「いってきます」が、その後の怒涛の展開に対比されていた。ちよっとしたシーンだったのだけど、日常の終わりの始まりとして、印象的だ。
物語にあまり触れないレビューで申し訳ないですが、日常に感謝して生活することを、改めて気付かされる良い作品でした。