劇場公開日 2022年11月11日

「心に響かない…」すずめの戸締まり Yuhideさんの映画レビュー(感想・評価)

1.5心に響かない…

2022年11月13日
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まったく心に響かなかったです…
悲しくなるくらいに、話に乗れなかった。ものすごい絵があってものすごいことが起こっているのに、途中から退屈で退屈で仕方なかった。

いちばんは、すずめと草太の関係性に気持ちが乗れなかったこと。すずめは過去の出来事があって、震災を止めたいというのはわかるけど、草太への思いがあるから、あそこまでの危険に飛び込むわけですよね。だからすずめにとっては、草太はかけがえのない存在でないといけない。この2人の関係性が、物語上で描ききれてないのは大きな問題で、関係性が積み上がっているようには感じない。だから、終盤に向けてのすずめの草太を助けたいと思う展開が、そこまで切実に感じられない。

すずめと草太が一目惚れなのはいい(実は出会っていたというのもいい)。さすがに椅子になるのが早すぎるように思うんです。人間パートが少なすぎないか。
もっと草太の人となりがわかるくらいには描いて、椅子になってしまうのが寂しいと思えるくらいには、2人の関係をじっくり描いてもよかったのではないか?

だからバディものとしても物足りない。
基本的にはミミズが出てきて、2人が戸締まりをする。このとき、2人だからこそできたという共同作業な感覚もない。ダイジンもつかまらない。つかまえても戻る術がよくわからないんですね。

日常が危うい、日常を守らなければならないという感覚も弱い。
すずめの日常を描く時間をもっと増やしてもよかったのではないか。旅をしているなかで、出会った人たちを守るというマインドももっと強くなっていかないといけない。不特定多数の人を守る、というのはさすがに命をかける理由がうすぼんやりとしてしまう。

すずめが命を賭けて守るものはなにか。それがよくわからないのだ。

さらにすずめは生命の大事さをわかっているのか。簡単に差し出すというが、それはどうなんだ。もちろんラストに生きるんだという強い意思にはつながるのだけど。終盤までチープな動機が続くので、かなりツラい。ダイジンが要石に戻るのでいいなら、最初からそれでいいじゃん…とも思ってしまった。

『天気の子』で、自己犠牲のその先を描いたのに、どういうことだ。世界を救うために誰かが犠牲にならないといけない、そのときにどう選択するのかという強烈な問いや設定がない。

4度の地震の危機があるが、同じようなパターンで、どんどん緊張感が失われていく。インフレさせるか、パターン変えるか、日常をもっと描くかしないと。なんならミミズが落ちてからの世界を描いてほしかった…。問題はそのあとだからだ。震災はすべて止められるものではない。じゃあそのさきの世界をぼくらはどう生きていくのか。現実に生きている人たちにどう接していけばいいのか。平和だと思っている人なんてもうどこにもいないよ。不安が蔓延しているこの時代に、それでも前に進まないといけない時代に、そんな表層的な自己犠牲の話をやられても響かない。

新海誠を信頼しているのは、時代を描ける人だと思った点。『君の名は。』で震災と向き合った。『天気の子』では、終わりのない狂った日常を、それでも好きな人と生きていくと宣言させた。反社会的といえるかもしれないけど、これこそが今の時代を描いたと思わせる強烈な作品を突きつけてきた。あのラストから世界はどうなっていくのか、考えざるをえない。それは震災後の僕らでもあるし、コロナ禍の僕らであるし、経済が衰退していき不安が覆っている状態だと読み替えることもできる。『天気の子』は2019年の作品でコロナ前でありながら、的確に今の時代を描いていたのだと思う。
だからこそ、新海誠が今なにを描くのかに興味があった。

しかしそもそもハードルを上げすぎかもしれない。その先を見たいなんて、こちらの願望でしかなくて、作家はしつこいくらい同じテーマを描くのが作家性ともいえるわけで、時代と寄り添わなくてもいい。震災に誠実に向き合った作品と見れば、また違うのかもしれない。

あと、「かえるくん、東京を救う」という村上春樹短編のなかで自分が最も好きな作品があって、かなりリンクしている部分がある。それで鑑賞中に期待値が勝手に上がっていたのもある。

散々、指摘されていた歌パートが今回はまったくない。これは物足りなさにつながっているのは明らか。失って初めて気づく、俺歌パート好きだったんだよーという気持ち。
だって否応なくエモーション。新海誠の絵と、RADWIMPSの歌が流れてたら、感情が揺さぶられるわけで。おかげで、RADWIMPSの歌もまったく印象に残っていない。ミュージックビデオ要素でいいじゃないか、ごめんね新海誠。

Yuhide