「多分苦手な人もいるが、好きな人にはとことん刺さる」すずめの戸締まり といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
多分苦手な人もいるが、好きな人にはとことん刺さる
先に言っておきますが、私は本作が好きです。しかし同時に、「この作品が苦手な人も少なからずいるだろうな」とも感じます。
『君の名は。』『天気の子』などのアニメ映画で知られる人気のアニメ映画監督である新海誠監督による最新作で、公開初日朝イチの回での鑑賞です。
結論から言いますと、「めちゃくちゃ面白かったけど、かなり際どいバランスだな」という感想を抱きました。エンタメとして非常に楽しめましたが、地震などの描写がリアルに出てくるため、嫌悪感を抱く方も少なからずいると思います。
新海監督は元々鑑賞する人を選ぶ独特な作風で、一部のアニメマニアに人気のあったクリエイターでした。(製作サイドからの指示で)作家性を抑えて広く一般向けに作ったのが『君の名は。』であり、これは日本映画史に残る爆発的ヒットを記録しました。次いで公開された『天気の子』は一転して監督の作家性と性癖がちょっと強めに出ており、結構人を選ぶ作品になっていたような気がします。
そして本作『すずめの戸締まり』は、どちらかと言えば『天気の子』に近く、監督の作家性が強く出ていました。しかしながら『天気の子』が苦手という方でも本作を「エンタメに寄せていて面白かった」と評価しているのをちらほら見掛けますので、「新海誠監督の作風(セカイ系)が苦手」という方でも意外とイケるのかもしれません。
地震の描写と新海作品特有の世界観という、観る人を選ぶ要素が二つも入っています。当然これらを許容できる方は本作を絶賛し、どうしても受け入れられない方は本作を酷評する。賛否両論が生まれやすい作品だと感じました。
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九州で叔母と二人暮らしをしている高校生の岩戸鈴芽(原菜乃華)は、ある日の通学路で端正な顔立ちの青年・宗像草太(松村北斗)に道を聞かれる。廃墟を探して扉を閉じると語る彼に興味を惹かれた鈴芽は、彼の向かった廃墟へと先回りし、彼の探していたと思しき「扉」を見つけた。その扉を開けると、そこには広い星空が続く不思議な空間が広がっているのだった。
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先述の通り、私は本作が好きです。非常に楽しめましたし、新海誠監督作品の最高傑作と言う方がいらっしゃるのも理解できます。しかし同時に、本作の地震に対する過激かつ直接的な描写に対して嫌悪感を抱いてしまう方がいらっしゃるのも理解できます。両者の気持ちが理解できるからこそ、肯定派と否定派が場外乱闘的に批判し合っている現在の状態はあんまり気分のいいもんじゃないです。そういえば、『天気の子』が公開された当初も劇中の異常気象と水害の描写、そして主人公の選択について、肯定派と否定派がバチバチに殴り合ってましたね。
新海誠監督は『君の名は。』から一貫して「災害」を描いてきた監督です。震災直後に公開された『星を追う子ども』を除けば、東日本大震災以降の作品では、必ず何かしらの災害が劇中の重要なファクターとして登場します。『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締まり』は合わせて「災害三部作」と呼ばれます。過去のインタビューでも震災について語っているものも多くあるそうで、監督にとってあの震災は自分の価値観を塗り替えられた重要なターニングポイントとなったのだと思います。
前作『天気の子』の水害描写はかなり誇張されたフィクションっぽいものでしたが、私の確認できる範囲だけでも、水害描写に対して「不謹慎」との批判的意見が散見されたのを覚えています。本作『すずめの戸締まり』は、災害の描写が誇張少な目でリアルに生々しく描かれています。誇張気味に描かれた前作でも批判があったのだから、当然リアルに災害を描いた本作が批判を受けるのは予想できます。そのため、監督は批判を覚悟で本作の製作に取り掛かったんだろうと感じます。そして、これこそが監督の描きたかったものなのだと思います。
私個人の意見にはなりますが、批判意見の中に「災害の描写があるからダメ」という論点での批判をする方が少なからずいらっしゃいますが、その意見に対して私は否定的です。災害描写がダメなんだったら、震災を扱ったドキュメンタリーもダメになっちゃうし、被災者の方が後世に震災の経験を伝える活動もダメってことになっちゃいますよ。「災害描写あるからダメ」は、いくらなんでも極端すぎる気がします。
私は本作を、過激な震災描写も含めて評価します。本当に素晴らしい作品でした。
新海作品の映像は映画館の大画面で鑑賞することでより楽しめると思いますので、ぜひ映画館でご覧いただきたいですね。オススメです!