「カナタハルカ」すずめの戸締まり ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
カナタハルカ
新海誠監督3年ぶりの最新作、常に災害というジャンルに立ち向かってきた新海監督が遂にストレートに災害と対峙する物語という事もあり、今までの繊細な描写とは少し離れてモンスターらしきものもいましたし、どのような作品になるか期待半分、不安半分で鑑賞。仕事終わり直行なので体に鞭を入れながら。特典は新海誠本です。
色々と気になる部分はある…けれどやはり新海監督の作る作品は改めて面白く、それでいて自分や他者と向き合う事を教えてくれる、好きだなと思えるものになっていました。
まず登場人物の表情の豊かさ、新海監督作品に常に備わっていたものは今作でも健在でした。すずめの快活な様子、日本を横断しまくるにも関わらず持ち前のガッツで突き進んでいく姿がとても凛々しかったです。可愛さも備えていて新海監督作品の新たなヒロインにしっかり名を刻んでくれました。草太は基本的に椅子の姿で日本をすずめと共に横断しますが、単独行動しようとするとすずめに捕まってモノ扱いされたり、実際のイスのフリをしたり、助けに入ったり、すずめの手伝いをしたりと、新海監督作品には珍しいマスコット枠がシリアスにしすぎない役割を果たしていてとても良かったです。
アニメーションの美しさは磨きに磨かれており、日本の風景の美しさ、もう一つの世界の幻想的な空間、登場人物たちの行動、さらに今回は災害をモチーフにしたミミズの化け物の存在感も加わって壮大に仕上がっていました。新海監督作品の新感覚を味わえることができました。
日本とは嫌なほどに密接な関係にある災害、今作はそれに焦点を当てた作品という事で、どこまで踏み込んでいくんだろうと思いましたが、想像以上に踏み込んでいた作品でした。ミミズが発生するのは日本の下にあるプレートが動くことによる地震をモチーフにしていて、実際にミミズが倒れたら地震が起こる仕組みになっており、草太とすずめが止めに向かいます。ある種のボランティアとしての役割も果たしつつ、日本の現状を強く訴えかけてもいました。「君の名は。」で復興を描き、「天気の子」で災害後の生き方を描き、そして今作へと繋がり、新海監督の集大成といっても過言ではない出来でした。
「言の葉の庭」で新海監督の独自性が色濃く描写されていて、「君の名は。」ではエンタメ向けに仕上がったので最高に面白いんですが、とても見やすくなっており(口噛み酒は独自性が強かったですが)、「天気の子」で少しその独自性が戻り、今作でかなり戻ってきたなと思いました。そのためエンタメ性は少し弱まっていましたが、感じた事のない感覚に引き込んでくれたのが最高でした。
気になった点として、展開が少し駆け足気味になった後半はロードムービーの良さが薄れてしまったなという印象です。複雑な話ではないのでスッとは飲み込めるんですが、後味は微妙という終わりの方は少しモヤモヤしました。ただ121分に詰め込まれた話とは思えないほどの濃密さを味わえるのは新海監督の手腕が全開で発揮されていたなと思いました。
初見でもかなり面白いなと思っていたんですが、時間が経って作品の事をぼんやりと考えていると色々と思いを馳せる場面が多く、2度目を見てより一層作品内で描かれた新海監督の想いがじんわり沁みてきました。何度もリピートしてしまいそうです。今年ベスト級になりそうな予感がしています。今年は大混戦です。
鑑賞日 11/11
鑑賞時間 24:00〜26:05
座席 O-15