「先生には見えていない子供の機微」サバカン SABAKAN movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
先生には見えていない子供の機微
「感動した!」と先生。
なら、タケちゃんの我慢になぜ目を向けない?
久田が読書感想文に書ききれることなんかより、
ずっと心を振り絞って生きているタケちゃんの毎日。
感動させて貰うための子供の感想ではなくて、先生の仕事は子供達の心の声を聴くことだよね?と。
漁師のお父さんを亡くし、4人も下にいる長男だから、
学校から帰ったら兄弟の世話。
お母さんは港町のスーパーで昼は働き、夜もお仕事。
留守が多くても、子供達のふとした表情を気にかける優しいお母さん。
でも、疲れた自転車の帰り道、子供達に思いを馳せたが故に、事故死。
誰も悪くないけれど、兄妹たちはそれぞれ別の家へ引き取られて行く。
大人が意味をわかって見ても心が傷むが、大人でなくても、タケちゃんの感情を、久田は子供ながらに推し量ろうとする優しさがあった。
家を馬鹿にした同級生達に混ざりながらも、タケちゃんの家を一緒になって笑って罵倒しなかった久田にちゃんと竹ちゃんは気付いていた。
夏休み、タケちゃんに誘われて、離れ島まで繰り出したり、海に山に川に、のびのびと過ごす中にも、タケちゃんの生活苦は見え隠れするが、適度な距離感で長い目で見守る町の人達。
そして、タケちゃんが振る舞ってくれた、サバカン鮨。
久田の家も、決して裕福ではない。
なんとか家計をやりくりする怒ると怖い母ちゃんと、母ちゃんに怒られながらも、温かい父ちゃん。
冒険に繰り出す朝、こっそり家を抜け出す息子達に気が付いたが、自転車の後ろにタオルを巻いて、千円札を持たせてくれる父ちゃん。あったかくてとても良かった。
タケちゃんが引っ越す日、貯めていたお小遣いを全部サバ缶に変えて見送りに走り出した息子を、チャリで駅まで迎えに行く父ちゃん。人の心があるなと感じた。
大多数の大人には見えない子供ながらの精一杯の優しさや堪えている強がりを、ちゃんと見えている人は素敵だなと思う。
同じく駅に見送りに来たみかん農園のおじさんも。
「売り物にならない酸っぱいの持ってきてやった」いつもみかんを盗られているし、そんな風に言っていたが、子供にもあるプライドを傷付けない最大限の思いやりが選んだ、甘い実たくさん。本当はどこの子かも全部知っていたのかとわかる瞬間。
そんなに狭い社会なのに、事情を知りながら見送りにも来ない先生。なんだかなぁ。綺麗な部分しか見えないのかな?
成績良い子よりずっとずっと、人間らしい価値ある心を持っている、久田を演じている子も、タケちゃんを演じている子も、ヒョロリと日焼けした長い手足が印象的で、それぞれの役に適した眼差しが印象的だった。
お互いに夢を叶えて再会する時、どんな話をするのかな?
お父さんとの思い出もあり鮨屋になったタケちゃんだが、絵もめちゃくちゃ上手。
竹本久田で絵と文を担当して、絵本や漫画を描いて欲しいなと思った。
大人になってからのシーンは冒頭と最後のごく僅かなので、草彅くんにしては台詞が少ないが、草彅くんらしい、繊細な感情をちゃんと見つめて伝えようとする作品だな。出演時間が少ないから撮りやすいながらも印象的な作品で、割の良い仕事なんだろうなぁなどと思ってしまった直後、クレジットに飯島ミチさんの名前が。これがあの、SMAPを支えてきた方の仕事の取り方なのかと彼らが恩を感じる理由が垣間見えた気がした。
草彅くんはドッキリを仕掛けても必死に抱えている仕事の練習をしていたり、「ステーキの脂身だけ残す子は苦手。全て含んでステーキなのに、食べ物に限らず、美味しいところだけ取るような子なのかなと感じてしまう。」と答えていた昔から変わらず、淡々と真面目に、自己顕示より中身を詰めて伝えてくる人柄である。
だからこそこの作品なのかな?と。木下グループの映画なので、韓国系なのかもしれないが、日本人の心と仕事ぶりが作品から伝わってきた。