「サバ缶で寿司を握ってくれたのが上手くて忘れられなかったというだけの話なんです。それだけのことが、一本の映画に。」サバカン SABAKAN 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
サバ缶で寿司を握ってくれたのが上手くて忘れられなかったというだけの話なんです。それだけのことが、一本の映画に。
物語はまず現代から。久田孝明(草彅剛)は貧しい作家でした。別居中の妻子への送金も滞りがち。パソコンを前に苦吟する毎日ですが、小学生の頃は作文が得意だったのです。
こうして「僕にはサバ缶を見ると思い出す少年がある」という久田の言葉から始まる、遠い昔の子供の頃の想い出話。
物語は一気に、久田が小学生だった頃の1986年の長崎へと遡ります。
普段は下品で格好悪く妻の尻に敷かれている孝明の父広重(竹原ピストル)と孝明曰く「怒らせると世界一怖い」が、心から家族を愛している孝明の母良子(尾野真千子)。ふたりは夫婦喧嘩は多いが愛情深かったのでした。
そんな両親と弟と暮らす久田孝明(子供時代・番家一路)は、斉藤由貴とキン肉マン消しゴム、そして女性のおっぱいが大好きな、おませな小学5年生でした。
ある日久田は、竹本健次(子供時代・原田琥之佑)から、『ねえ、そのイルカ、一緒に見に行かん?』と誘われます。なぜ親しくもない久田を、竹本は誘ったのでしょうか?
竹本いつもクラスメートから貧乏をからかわれ、友達がいなかったのでした。おまけに貧乏だったのも漁師の父が他界してしまったから。ボロ家で母や4人の弟妹と暮らす彼は、年中ランニングシャツを着て、いつも一人で机に魚の絵を描いていました。その点久田はガサツだが愛情深い両親に育てられたためか、純朴で元気なクラスの人気者となっていたのでした。終盤で誘った理由は竹本から明かされますが、やはり久田の性格によるところが大きかったようです。
竹本からの突然の誘いにもイルカに乗ってみたかった久田は、『いくばい。ブーメラン島に』と即答します。こうしてふたりの少年は、子供用の自転車に跨って、イルカを見るためにブーメラン島を目指すことになったのです。
それはまるで映画『スタンド・バイ・ミー』の「おとなしい男の子が活動的な友達と一緒にちょっとした冒険の旅に出る」というストーリーと、それを「遠く過ぎ去った夏の一日を、作家になった男の子が回想する」という物語の設定を思い出さざるを得なくなるほど酷似した話でした。
タイトルにもなったサバ缶の思い出というのもたいしたものではありませんでした。竹本が家に来てくれた久田を持てなすために、サバ缶で寿司を握ってくれたのが上手くて忘れられなかったというだけの話なんです。それだけのことが、一本の映画になってしまったのです。
もちろんブーメラン島に自転車二人乗りで向かうことは、小学5年生にとって大冒険だったことに違いはありません。急な坂道に四苦八苦し、陸地からかなり離れた島まで泳ぎ切ることも危険が伴う挑戦だったことでしょう。途中ヤンキーに絡まれたり、久田が島に着いてから足が絡まり溺れかけたりします。
でも冒険にしては割とあっさり島に辿りついてしまうのです。おまけにお目当てのイルカのことなんて脇に置いて、島で偶然であった少女との出会いの方にポイントが移行して、冒険という本来のイメージがかなり薄れてしまいました。
むしろ本作ではサバ缶の話やブーメラン島の冒険話よりも、後半の家庭の事情から転校することになってしまった竹本と久田の別れのシーンがグッときます。
涙ぐむわが子にそっと近付いて、何も言わずに肩をポンポンとタタいて慰める父・広重の優しさにもほろっと泣かされました。竹原ピストルは理想の父親像を演じて感動しました。
そしてお話しは現在の久田に戻っていきます。はたして過去を振り返ることで久田は何かを掴み、別居状態にある妻子との寄りを戻すきっかけとなることができるのでしょうか。(見てのお楽しみに!)
本作で問題なのは、宣伝文句。「主役は子供です!」と謳いつつも、ことあるごとに「ミッドナイトスワン」の草彅剛の感動ふたたびと、草彅剛の出演をアピールしていたのです。しかし草彅の出番は冒頭とエンディングのわずかなシーンのみ。友情出演レベルでしかなかったので、草彅出演をあてにして見に来た人にとっては、誇大広告だと文句をいいたくなる宣伝内容でした。
。それでも竹本と久田の少年時代を演じきった主役のふたりの子役が見せる自然体でふたりの息の合った演技は見事です。この子たちの好演には大人の観客がノスタルジーをかき立てられた人が多くいたようで、映画サイトのポイントを押し上げているようです。
ちなみに主役のサバ缶ですが、水煮なのかみそ煮なのか醤油煮なのか正体は不明でした(^^ゞ
追伸
竹田がいつもみかん泥棒をしていたみかん園では、そこの農家の内田(岩松了)から追いかけられていたようなのです。
竹田が久田を誘ってみかん園に行ったとき、いつものように内田は追いかけてきたです。でも内田は老人のはずなのに何故か異常に足が速かったです。どんなにふたりが息を切らして逃げ回っても、内田は必ずふたりの先回りしているのは、何か超能力的な術を駆使していたのでしょうか。疑問です(^^ゞ