「ぼくたちの夏休み」サバカン SABAKAN ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
ぼくたちの夏休み
あることをきっかけに過去の記憶が蘇えり、
それを元にした小説をモノするのは
『マルセル・プルースト』の〔失われた時を求めて〕に代表される仕掛け。
もう一つ、
今は売れなくなってしまい
家族にも見放された作家が
自身の体験による新作で再生する、
これも有りがち。
手垢の付いた二つの要素を組み合わせたにもかかわらず、
しかしなかなかの良作に仕上げているのは、
脚本/監督の『金沢知樹』の手柄も
やはり自分の子供時代の記憶は盛り込まれているのだろう。
こうした{私小説}に近い構成の物語はやはり強い。
誰しもが自己の昔と重ね合わせ
「ああ、そういえば僕にも/私にも(似たことが)あったよな」と
共感を得られる。
今回、懐かしい記憶を呼び起こすきっかけになるのは、
鯖の味噌煮缶(それもマルハ印の!)。
それを寿司に仕立てるのはアイデアだが、
自分も小学生の頃に、同級生の家で「カレーに入れる」との話を聞いたこともあり、
食の多様性を改めて感じてみたり。
とは言え、この「サバ缶」が画面にちょくちょく顔を出し、
効果的に機能する。
和製〔スタンド・バイ・ミー(1986年)〕との紹介文もあるけれど、
先の作は旅の一部始終を描いた{ロードムービー}。
翻って本作は、小さな旅を終えてからが本当のストーリーの始まりで
だいぶ形を異にしている。
どちらかと言えば、『井上陽水』の〔少年時代〕の歌詞、
或いはPS版の〔ぼくのなつやすみ〕を彷彿とさせるエピソードの数々。
最初は取っ付き難かった級友との触れ合い、
或いは年上の女性に仄かに抱いた恋心。
遊び惚けてしまったため、最後の数日で大慌てでやっつける宿題。
そして、9月の始業式に合わせたように
転校してしまった同級生の想い出。
それらが、より合わせた縄の様に絡み合い、
観る人の感情を切なく刺激する。
勿論、自分も、夏休みには普段ならバスで移動する距離を
隣町迄友人達と自転車で掛け回ったクチ(当時は、親が同行しない町を越えての移動は
校則で禁止されていた)。
或いは、近所の家に都会から避暑に来ていたお姉さんにドキドキもした。
内容の差はあれ、この映画に触れた皆が皆、
子供の頃の甘酸っぱい記憶と、
暫しの邂逅にひたるだろう。