「忍法クレヨンしんちゃんの術」映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
忍法クレヨンしんちゃんの術
映画クレヨンしんちゃん30作目。
記念すべき映画化30周年の題材は、『雲黒斎の野望』『戦国大合戦』以来となる、時代劇もの。
厳密に言うと、忍者。
これまでも映画や原作漫画で忍者が出てくるエピソードやキャラはあったような気がしたが、がっつりメイン題材になるのは初。
これまで無かったのが不思議なくらい『クレヨンしんちゃん』の世界にフィット。どんなジャンルでも変幻自在にしんのすけの“お遊び”に。
そういや昨今、忍者ごっこして遊ぶ子供は皆無状態。時代とは言え…。しかし劇中、これが巧みに活かされている。
節目の30年で『クレヨンしんちゃん』×忍者。単にそれだけではない。
30年目で明かされる、しんのすけの驚きの出生の秘密…?!
ある日、野原家に突然の訪問者。しんのすけが産まれた産婦人科医の院長と、若い妊婦と一人の男の子。
院長は顔を見せぬほど深々と平謝り。曰く、5年前の出産時、とんでもないミスがあった。
しんのすけと別の男の子の取り違えが…!
30年目で衝撃の事実。しんのすけは、ひろしとみさえの子供ではない…!?
これが事実だったら、共に過ごしてきた5年間(『クレヨンしんちゃん』の30年)がひっくり返る。
幾ら30周年の特別な題材とは言え、こんなのアリ…?
はい、ご安心を。いきなりネタバレで言っちゃうけど、そんな事実は一切ございません。
予告編やキャッチコピーなどで“オラは誰の子?!”“とーちゃんかーちゃんの子じゃない…?”はちょっと大袈裟感のある掴みネタ。
これにはあくまで訳アリが…。
妊婦と男の子はある所からやって来た。
屁祖隠ちよめと息子の珍蔵。“忍者の里”の忍者母子。
ちよめはしんのすけの本当の母親として名乗り出、珍蔵が二人の本当の子供であると言うが…。
困惑するひろしとみさえ。
その夜、謎の忍者集団の襲撃により、しんのすけは忍者の里に連れ去られてしまう…!
今も忍者たちが隠れ生活している“忍者の里”。
ここには、“地球のへそ”がある。超巨大純金で塞いでいる。
が、この純金が外れかかっている。もし、外れたら…? 地球のへそから莫大なエネルギー“ニントル”が放出され、地球は枯渇し、死の星になってしまう…!
代々それを守る努めなのが、屁祖隠家。“もののけの術”で巨大な動物になり、栓(純金)で塞ぐ。
珍蔵の父も祖父も。が、もののけの術を使い過ぎると動物になってしまう。
ところが、珍蔵はまだもののけの術が使えない。
そんな定められた掟、偉そうな長老の横暴から息子を守る為、ちよめは珍蔵を連れて外の世界へ。
何故野原一家かと言うと、5年前、ちよめが里の仕事で外の世界に居た時急に産気付き、たまたま産婦人科医の同じ病室だったのが、野原一家。
その時の野原一家の平々凡々な幸せそうな姿に憧れ、我が子にもそんな暮らしをさせたいと、取り違えをでっち上げ…。
そもそもの動機やちよめの理由が弱い気がするが…、それを差し引けば、今回も安心安定で楽しめる映画『クレヨンしんちゃん』。
忍者の里にやって来ても、いつも通りマイペースのしんのすけ。
当然本当は忍者の子供ではないので、忍術など使えない。使えないけど、“忍法おバカ”で周囲を振り回す。
一方の珍蔵は…、野原家で普通の子供の暮らし。
しんのすけと違って、礼儀正しい真面目な子。
しんのすけとちよめ。
珍蔵とひろしみさえ。
しんのすけを取り戻そうと外部からの侵入が禁じられている忍者の里へ向かうひろしとみさえ。忍者の里の危機に立ち向かうしんのすけとちよめ。
“二組の親子”の奮闘と、親子愛が今回の主軸。
時折挿入される幼き頃のしんのすけの思い出。
しんのすけの目線で、ひろしとみさえの愛情を受ける。
それを夢で見、涙ぐむしんのすけ。
里を出る事を決心した際の、「オラは野原しんのすけだゾ!」。
逃げる時転び足を擦りむき、また涙ぐむ。
嵐を呼ぶ幼稚園児が代名詞だけど、まだまだ5歳の子供。
とーちゃんかーちゃんが恋しい。
誰が何と言おうと、オラはとーちゃんかーちゃんの子供だゾ!
珍蔵も然り。
一見出来た子供だけど、随分と我慢している。それを見抜くみさえ。
ある時遂に、不満や欲求が爆発。駄々をこねる。
純粋な子供でいたい駄々。
子供はそうであっていいんじゃないか。甘えたい時は甘え、遊びたい時は遊びたい。
我慢せず、無理をしないで。
それはちよめにも言える。
一人で全部を背負おうとする。
助けが欲しい時は助けを乞うたっていい。
必ず、みさえやひろしのような愛情と人情深い、同じ子を持つ親が助けてくれる。
親子の関係や子の在り方、親の在り方…。
変わらぬ『クレヨンしんちゃん』のテーマは本作でもしっかりと。
らしいギャグもたっぷりと。
突飛な世界観や設定もさることながら、一番ウケたのは、刺客忍者。
“辺賀久才蔵”とその忍術“最臭日”。シャレの効いたネーミングセンスは相変わらず巧い!
もう一人の刺客に、アノ歌手。“もののけ”繋がり…?
アノ超人気アニメの声優と、それを彷彿させる術の名。
今回の敵は、長老。偉そうな性格に、自分だけは近代的な贅沢な暮らし。その資金は、純粋を削って。そのせいで危機に瀕している。
映画『クレヨンしんちゃん』の悪役でもかなりのヤな奴。その横暴さにブチギレられ、秘書にブッ飛ばされるシーンは痛快。
ちよめのゲスト声優が川栄李奈とは最初気付かなかった。そういや以前も主役の声を務めたアニメ映画あったけど(奇しくも『クレヨンしんちゃん』と関わりある湯浅政明監督作品)、なかなか巧い!
ゲストお笑い芸人は、ハライチ。定番のネタも披露。
もののけの術により、珍蔵の父と祖父は動物の姿に。
ナマケモノ祖父、ゴリラ父。母ちよめだけじゃなく、この二キャラも絶妙。
終盤父が負傷し、術が使えなくなる。息子に託す。
術が使えなかった珍蔵だが…、分かっていても子供の成長をストレートに。
クライマックスは、外れた純金栓を地球のへそに戻す。
地球の危機レベルの大スケールと、大忍法作戦!
ちよめが開発した巨大くぐつロボにひろしとみさえが乗り動かし、珍蔵はもののけの術で巨大動物になり(オオカミ? リス? と思っていたら…!)、噴出したニントルでしんのすけたちももののけの術で動物に大変身!
元々もののけの術は、子供の遊びから生まれた術。
地球の危機を救う野原一家&屁祖隠一家の活躍であると同時に、忍者ごっこをしなくなった現代っ子たちが、ブッ飛びの方法で元気いっぱいの忍者ごっこをまるでしているよう。
何だかそれが見ていて嬉しくなった。
今回も面白かったのは面白かったが、近年のBESTではなかった。
だけど、今回も教えてくれる。
たくさんのギャグ笑い。
ハートフルな感動。
家族愛。
子供らしさ。
忍法クレヨンしんちゃんの術。