「世界はイマジナリに溢れている」屋根裏のラジャー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
世界はイマジナリに溢れている
2013年、スタジオジブリの製作部門の一時解体に伴い、2014年にジブリを退社したスタッフたちが立ち上げた新アニメ会社“スタジオポノック”。
2017年に長編第1作『メアリと魔女の花』を発表し、その後も意欲的な短編を。
本作は長編第2作となる最新作。
コロナで製作や公開が遅れたが、やっと。
今冬はまたもアニメ映画の話題作がひしめく。一歩抜け出せるか…?
今年のアニメ映画の個人的ベスト群、『SAND LAND』『マリオ』『BLUE GIANT』『スパイダーマン』には及ばずとも、良作好編。ディズニーの『ウィッシュ』よりこちらをオススメしたい。
またスタジオポノック作品としても、映像技術やイマジネーションは格段に進歩。『メアリと魔女の花』はジブリへの恩返しでちとオリジナリティーに欠けたが、本作でいよいよスタジオポノックの真価と今後が期待出来そう。
イギリスの小説を基に描くのは…
少女アマンダには仲のいい友達がいる。ラジャーという少年。
が、ラジャーはアマンダにしか見えない。ラジャーは想像上の友達“イマジナリ”であった…。
よく海外の作品なんかで描かれる子供の想像上の友達、“イマジナリーフレンド”。
イギリスの小説が基とは言え、日本でこの題材を扱うのは珍しい。
大人には見えない。見えるのは子供だけ。だからか、海外の作品でたまにイマジナリーフレンドでホラーになる事もあるが(そんな新作が来年公開)、本作は目一杯の冒険ファンタジー。
アマンダの想像力は豊か。
アマンダの想像した世界で、アマンダとラジャーはいつも一緒に遊び、冒険。
何よりの楽しみ。悲しみを背負うアマンダにとっては…。
父を亡くし、母リジーと二人暮らし。無論母にはラジャーは見えない。
母は仕事や家事に追われ、時々アマンダと向き合えない時も。
そんな寂しさを埋めてくれるラジャーは、アマンダにとって欠けがえのない存在。
実態のない存在じゃなく、外に出て本物の友達作って遊べ!…なんて言う勿れ。
誰だって子供の頃、想像した世界や友達があった筈。絶対にだ。
私は想像の中で、もう一人の私に話し掛けたもんだ。
ゴジラが好きなので、自分なりのゴジラ映画を想像して遊んだ。
たくさんのアニメキャラたち…ドラえもん、アトム、コナン、クレヨンしんちゃん、ルパン、ドラゴンボールらが実際には不可能な“共演”をし、冒険。悪の代表=フリーザなんかと戦うとか。
子供だったとは言え、幼稚な想像でお恥ずかしい!(>_<)
でも、そんな想像して楽しんだもんだ。
皆さんだってあるでしょう? もし無かったら、超現実主義の大人びた子供だったか、はたまた別の理由や事情か…。
子供とイマジナリは一生一緒という訳にはいかない。
大人になるにつれ、子供はイマジナリを忘れる。
忘れられると、イマジナリは消えてしまう。儚い存在でもあった。
ある日、危機が…。
アマンダとラジャーの前に現れた謎の男=バンティング。
不気味な黒い少女(彼女もイマジナリ…? 大人には見えない)を従わせ、イマジナリを食らう。
何故か異様にラジャーを付け狙う。ラジャーからは特別な“匂い”がするという。
襲われ逃げた時、アマンダは車に轢かれる。
するとラジャーは、見知らぬ世界へ。
そこは、イマジナリたちが暮らす世界。
たくさんのイマジナリたちが暮らしているが、ここにいるイマジナリたちは友達だった子供たちに忘れられて…。
ラジャーがここにいるという事は、アマンダに忘れられた…? それともあの事故でアマンダは…。
イマジナリのリーダー格の少女エミリから、この世界での暮らしや仕事を学ぶ。
が、それでもアマンダを忘れられないラジャーは…。
イマジナリの世界がユニーク。
中心地は図書館。本を読む事で、想像力が豊かになる。
子供たちの想像力が、私たち人間で言う酸素みたいなもの。
イマジナリたちの仕事は、想像の世界で子供たちと遊ぶ事。
それはたった一日の事だが、中には稀にずっと一緒にいる事も。新しいイマジナリになる。
エミリらもかつては誰かのイマジナリだった。
ユニークで個性的だが、そう考えると彼らイマジナリも悲しみを背負っている。
老犬のイマジナリがいる。ある意外な人物のイマジナリ。終盤思い出し、再会を果たすシーンは感動的。(老犬=“新人声優”の寺尾聰が見事)
ラジャーはアマンダが何処かの病院に入院し眠り続けている事を知る。
探し出し、アマンダの元へ向かおうとするが、しつこくバンティングが立ち塞がる。
ラジャーはアマンダと再会を果たす事が出来るか…?
ラジャーは忘れられ、消える運命を避ける為にただ奮闘しているんじゃない。
いつかは忘れられる。それは分かっている。逃れられない運命。
でも、今はまだ…。ただ、もう一度会いたい。
純粋に“友達”として。
二人の友情をメインに、イマジナリの仲間との友情、アマンダと母の親子愛。
アマンダの3つの誓い。パパを忘れない。ママを守る。泣かない。
私にはそれがこう見え、感じた。現実の家族を大事にする。イマジナリを忘れない。想像力を失わない。
終盤のラジャーとアマンダの再会。意識を取り戻したアマンダの想像の冒険。
バンティングとの対峙。バンティングは現実を突き付け、想像力を奪おうとするメタファー。もしくは、イマジナリに縛られ固執し続ける大人に成りきれなかった悲しい存在なのかも。
マジで不気味な黒い少女。想像には怖い面もある。光と闇も介して。
アマンダと母の再会。
母にはある再会が。
子供であるという事。
想像するという事。
成長するという事。
大人になるという事。
現実を受け入れるという事。
でも、それはただ忘れるという事だけじゃない。
想像力を失わなければ、大人になってもいつか必ず思い出す。
あなたのイマジナリを。
想像がやがて現実になる事もある。
映画や本や漫画…これらだって誰かの想像の産物。
ドラえもんは藤子・F・不二雄のイマジナリ。
ハリー・ポッターはJ・K・ローリングのイマジナリ。
この映画も。
私たちはあらゆる媒体を通じて、誰かのイマジナリと触れ合っている。
この世界はイマジナリに溢れている。
iwaozさん
コメントありがとうございます。
『ネバーエンディング・ストーリー』も確かに“イマジナリ”ですね。今回の『ラジャー』も海外の小説が基なら、『ネバーエンディング・ストーリー』をポノックでアニメ映画化するのも面白そうです。
ホラー版を見たばかりですが、『プーさん』もイマジナリーフレンドなんですよね。
改めて気付くと、本当にこの世界はイマジナリに溢れています。
個人的に「はてしない物語」(ネバーエンディングストーリー)がイマジナリと虚無(現実、想像力を失くす)との戦いを描いていた最初の作品だと思うのですが、どうなんでしょう?
ミヒャエルエンデさんのモモも凄く面白いのでポノックさんがチャレンジしてくれると凄く面白いと思うのですがf^_^;
素晴らしいレビュー感謝です^ ^
なるほど!様々な本や漫画、アニメ、(ゆるキャラも?)などのキャラクターはみんなイマジナリなんですよね。見えないはずの彼、彼女たちを他の人たちにも見えるようにした創作者の方々(ふつうの子どもたちも?)は凄い事をしているって事ですね。∑(゚Д゚)
うーん、面白いです!(^-^)