「美しいディストピアでしたが」バブル Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
美しいディストピアでしたが
◉誰もが無関心な展開
序盤で途方もない危機や謎が次々に提示される。東京を支配下に置こうとする泡と、落ちた者を真底へ呑み込む渦。美少女の姿をした人魚姫ウタ。主人公のヒビキとウタにしか聞こえない歌声。東京タワーが爆発する寸前にヒビキに見えたもの。
しかし主役グループも含めて、それらのものを間近に見ている人々や、周辺世界にいるであろう人たちが、異常な事態の割に無関心。
謎や危機があるならば、それを煽っていくから、物語は楽しくなっていくと思うのですが、パルクールの仲間も東京周辺の人たちも、淡々と日々を送るだけに見えた。
◉ディストピアのドキュメント
作品のメインシーンは「泡に襲来され廃都市となった東京では近年、若者たちが監視の目を逃れてパルクールに夢中になっています。泡は数は減りましたが、緩やかに浮遊しています」と言う趣旨のドキュメントに近かったように感じました。
だから、水没都市のディストピアの眺めが飛びっきり美しいだけで、空を軽々と飛び回る若者たちの誰もが、そのまま妙に薄っぺらだった。
◉澱みに浮かぶうたかたは
天からは「泡沫=うたかた」の形をした生命体が降って重力を支配して、海からは人魚姫であるウタの一族が人類を狙っているらしいのは分かった。つまり、いずれもヒトにとっては「悪」。ただ、その二つを納得ゆく形で物語に取り込むことはせずに、泡繋がりで天と海を合わせて、終焉に向かってしまった。
ウタを拘束した人魚姫の姉の黒いシルエットを見て、何となく昔の少女漫画のドキドキを思い出しました。実はこの姉が一番インパクトがあって、予想外の話が始まるかとさえ思えました。
うたかた=泡沫は消えたり生じたりして、崩壊と再生を繰り返すものだから、明るい廃墟を背景に目一杯虚無感に浸り、そしてウタの再生も心の何処かで信じると言うのが本作の趣旨だったとしたら、また別の話になる訳ですが。