「スパイダーマン ぼっち・ざ・ろっく! 超次元のクオリティで描かれるのは、低次元な内輪揉め。」スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
スパイダーマン ぼっち・ざ・ろっく! 超次元のクオリティで描かれるのは、低次元な内輪揉め。
多次元のスパイダーマンが一堂に会するアメコミヒーロー・アニメ映画『スパイダーバース』シリーズの第2作。
前作から1年4ヶ月。スパイダーマンとしての活動を続けるマイルスの下に、別次元からグウェンがやってくる。再会を喜ぶ2人だったが、グウェンにはある目的があった…。
○キャスト
グウェン・ステイシー/スパイダーグウェン…ヘイリー・スタインフェルド。
ミゲル・オハラ/スパイダーマン2099…オスカー・アイザック。
○吹き替え版キャスト
ピーター・B・パーカー/スパイダーマン…宮野真守。
前作『スパイダーマン スパイダーバース』は紛う方ない傑作だった。
アメコミヒーローに全く興味がなかった、それどころか苦手意識すら持っていた自分が「MCU」や『アメイジング・スパイダーマン』シリーズを鑑賞するようになり、さらにはPS4版の「スパイダーマン」シリーズまでプレイするようになったのはこの第1作目のお陰である。
自分の嗜好すら変えてしまったこのシリーズ。第2作目の制作が発表されてからどれだけの時間が経ったのかは定かではないが、とにかくその完成を首を長くして待っていた。
とはいえ、不安が無かったわけではない。次回作を意識した作りだったとはいえ、『1』のストーリーはその終わり方を含め、文句のつけようのない完璧さだったからだ。
並大抵の映画では蛇足になってしまう。そんな高いハードルが設定された本作、いざ鑑賞してみた感想はというと…。
うーん…。どうなんだろうこれは?
前後編だということは知っていたが、想像していた以上に途中で物語が終わってしまった。『帝国の逆襲』を思い出すTo be continued感。
まぁそのこと自体は別に良いんだけど、問題は風呂敷を広げるだけ広げて、その解決を全て次回に放り投げてしまった点にあると思う。
考えてみれば、この映画単体で倒したヴィランは冒頭に登場したヴァルチャーのみ。多元宇宙を操る宿敵・スポットも、闇堕ちしたマイルス=プラウラーも、顔見せ程度の出番で終わってしまっている。
では、全宇宙崩壊につながるような激ヤバヴィランを放っておいてまで、この映画が何を描いているのかというと、マイルスvsスパイダー軍団の壮絶な内輪揉め。そんな事やっとる場合かーーッ!
そりゃ確かに、200人以上のヘンテコスパイダー軍団による大乱闘は観ていて楽しいよ。楽しいんだけれども、それじゃ物語は前に進まない訳でね。
スパイダー軍団との戦いを描くのは良いんだけれど、せめてスポットとの戦いくらいは今回だけである程度の決着をつけて欲しかったところ。内輪揉めがクライマックスじゃ、気持ち的に盛り上がらないっすわ😅
成長したマイルスやグウェンの姿を見れたのは素直に嬉しい。ただ、スパイダーパンクやスパイダーマン・インディアなどの新キャラクターには少々不満。
彼らは次回作ではメインキャラクターとして活躍するのだろうが、今作の描写だけでは数多く登場したスパイダーマンの1人、という以上のキャラクター性を見出すことができなかった。
彼らと共闘してスパイダー軍団に立ち向かうとか、強力なヴィランを倒すとか、そういう展開が欲しかった。正直、あんまり新メンバーに愛着が湧かないんだよね。
キャラクターに関して特に今回不満だったのは、ピーター・B・パーカーが脇役になってしまっていたこと。彼の活躍は次回に持ち越し、という事なんだろうが、もう少し大きな役回りを与えても良かったのではないだろうか。
と、不満ばかりを書き綴ってしまったが、観ている最中は一瞬たりとも退屈はしなかった。140分というアニメにしては長尺な作品なのだが、本当にあっという間に時間が過ぎていく。
というのも、今作は絵の力があまりにも強すぎる。前作をも凌駕する圧倒的な情報量が詰め込まれたアニメーションは、もはやエンタメの枠に収まりきらない。前衛アートの世界に片足を突っ込んでいる。
2D、3D、実写、フォトリアル、カートゥーン、コラージュ、etc…。とにかくあらゆるアートデザインが、一つの空間に同居している。このカオスっぷりは前作の比ではない。
凄まじい物量で押し寄せてくるアニメーションの波に飲み込まれ、思考がショート寸前の状態まで追い込まれる。このトリップするかのようなドラッギーな感覚は他の作品では味わうことが出来ないだろう。
この映像を浴びる事ができるというだけで、この映画を鑑賞する価値は十分にあると言える。
映像の凄さもさることながら、今回感心したのはテーマの描き方。
今回描かれているテーマの一つは「カミングアウト」。
思いの丈を声に出して伝えることの大切さを説いているわけだが、これはLGBTQ +におけるカミングアウトの暗喩にもなっている。グウェンの部屋に「Protect Trans Kids」と書かれたポスターが貼られていることからもそれは明確だろう。
性的マイノリティーについての社会的メッセージを、全く別の物語の裏側に隠すことで広い層へと普及していく。イデオロギーが前面に出過ぎているあまり、物語としての面白さが削がれてしまっている映画も見受けられるなか、このようにさりげなく、しかし確固としたメッセージを送る作劇の上手さにはなかなかに舌を巻きました。
そんなこんなで、かなり楽しんだことは間違いない。
あまりにも情報過多の作品であるため1回観ただけでは半分くらいしか理解できていない感じがする。2度3度と繰り返し観ることで、評価が高くなっていく作品なのかも。もう1回くらいは劇場に足を運ぼうかなぁ🤔
今回イマイチ乗り切れなかったのはとにかく下地作りに終始した作品だったから。裏を返せば、今回でセットアップは100%完了。新たなバンドメンバーも揃ったし、次回作では冒頭からフルスロットルでぶっ飛ばしてくれるはず!!
マジ、『3』はとんでもない傑作になると俺のスパイダーセンスが言っている…。2024年の公開を、期待に体を震わせながら待ちたいと思います♪😆