「シナリオがヤバい」スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)
シナリオがヤバい
吹替版で鑑賞。
アニメーションの歴史に残るインパクトを残した前作を続編でまさか軽々と超えてくるとは思わなかった。
とにかくシナリオがハイパーよくできてる。安定のフィル・ロードと仲間たち。
日頃からそんなにヒーローものを観ているわけじゃないけど、LEGOムービー同様、スパイダーマンという歴史もバリエーションも豊かなシリーズだからこそ可能な構造をよくもこう見つけ出してくるなあと、まずそこに感動してしまった。サム・ライミ版が追求した「ヒーローとは?」の主題にこのシリーズも真摯に取り組み、的確な回答を提示してくるという。
企画の知能指数が高すぎる。
実は3部構成だったことが判明するわけだけど、前作の時点ですでにその構想はあったのかどうか。どっちにしてもすごい。ほんと次作が待ち遠しい。
シナリオがマトモだと、この映像のゴージャスさには、もはや優雅とも言えるほどの余裕が感じられる。
アニメやマンガが日本のお家芸だなんて、気軽に言えなくなるような一作だと思う。
今回の敵役スポットもいいし、オジマンディアスみのあるあの人もよかった。もちろんマイルスも、そしてそれ以上にグウェン…! 前作よりさらに好きになった。
吹替は情報の洪水のような画面のこのシリーズでも観やすくてオススメ。逆に字幕だったら脳が追いつかなかったかも。
ただ、日本語版のエンディングが作品に合ってなくて興醒め。タイアップもいいけど、曲のチョイスが悪すぎて誰も得してないので、せめてブラックミュージックのアーティストにするとか手はあったはず。発祥の地のくせに、日本のソニーは音楽を売る会社としてダサすぎるよ。
↓以下、ストーリーの中身に言及
今作の主人公マイルスは自分の人生をスパイダーマン人生のひとつのバリエーションとして俯瞰させられ、チームの一員としてユニバース全体を守るか、個のヒーローとして大切な人々を守るかの相剋に直面し、そこで選択を迫られる。
たくさんのスパイダーマン像、あり得たかも知れない可能性を見渡した上で、どれが自分のストーリーにふさわしいのか選べ、という分岐点に立たされる。
つまりこれはストーリーを語ることについてのストーリーであり、そういうメタ視点、批評性の高さはこれまでのフィル・ロード案件にも共通している。
だからといってキャラクターたちを完全に突き放しているわけでもなく、マイルスの決断こそがヒーロー性の発露として、モロにヒーローとは何か、という問いへの答えにもなっている。
(しかしその結果、自分の身内を優先して大多数の人々を犠牲にするなら、もはやヒーローと言えなくなってしまう。都合よく「ケーキを焼きながらケーキを食べる」のか、真正面からクリーンに打ち返すせるのか、決着次第で180度変わってしまうけど)
一方でマイルスやグウェンが抱えるスパイダーマンとしての葛藤は、思春期の親子関係の変化や、自分の属性やアイデンティティを認めてもらうことに直結していて、ものすごい直球の、普遍的なファミリードラマという側面もある。これは本作に限らずスパイダーマンシリーズを通した根の部分ではあると思うけど、チーム設定を出したことにより、「家出」をより鮮明に描くことが可能に。
とくにグウェンがチームの一員になる経緯、あまりのスムーズさにもう脱帽。切られたことにも気づかない速さで達人に斬られたみたいな感覚だった。。
今作で「スパイダーバース」は単に世界観が多層的だというばかりでなく、ストーリー的にもいくつもの層が重ねられ、しかもそれらがシームレスに連続している。
その意味でこの映像表現には意味があったんだという理由づけになっている(たとえ後づけにせよ)。
だから、複雑で情報量が多いというハードルはあるにせよ、確実に前作を超える奥行を獲得しているんだと思う。
あの1本目がただのフリだったなんてよもやまさか嘘でしょ?