「いつかは訪れる老いを考える」百花 bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
いつかは訪れる老いを考える
新海作品の『君の名は』でも製作に携わり、脚本家・小説家としても様々な作品を手掛けてきた川村元気の同名小説の映画化。先日、原作を読んだのをきっかけに、配信ビデオで鑑賞。川村元気らしい、心温まるハートフルなストーリー。
人にとって誰もが迎える老い。そして、老いに伴う認知症をモチーフに、次第にこれまでの記憶が忘れ去られていく母と、その母を支える息子との心の葛藤と絆を、切なく、愛おしく描いているヒューマン・ドラマ。
自分の父も、4年前に認知症を患い、最後は肺炎で亡くなった。今また母が、老化が進み介護が少しずつ必要になる中、本作が他人事の世界ではなく、現実味のある話として、胸に込み上げてくるものがあった。人はいつか老いて、死んでいく。そんな自然な摂理の中で、最後に蘇ってくるものはいったい何なのだろう?
シングルマザーとして、息子の泉の成長だけを願って、誰にも頼らずに生きてきた母・百合子。そんな母が認知症となり、日に日にものを忘れていく現実を突き付けられた泉。母の介護をしながら、様々な過去を思い出す中で、実は2人の間には、泉が幼かった時に、1年間の空白の時間が存在していた。その時の母の日記を、部屋の片づけをしていた泉が見つけた。そこには、母が秘密にしてきた、生々しい女としての過去が綴られていた。
そんな過去を知った葛藤の中でも、母へと寄り添おうとする息子を、アカデミー俳優・菅田将暉が演じている。そして、その母を原田美枝子が演じているが、25年以上前の若き頃と現在の2役を演じているが、若かりし頃の姿を知る者としては、あの原田美枝子が甦ったと思うほど、自然な姿が映し出されていた。
過去の苦しくて悲しいシーンも、美しく、楽しいものに変換するは努力は、今ならまだできるのかもしれない。改めて、晩年に差し掛かってきた自分の人生とどう向き合っていくかも合わせて、考えさせられる作品であった。
最後に蘇ってくるもの…あたたかかった人とのやさしい記憶だったらいいなと思います。いつ、なにが起こるかわからない人生。
せめて人々は、お互いが思いやりを大切に過ごす世の中でありたいなと願います。