「「記憶」という迷路の先に見つけれるものは何か」百花 甘酒さんの映画レビュー(感想・評価)
「記憶」という迷路の先に見つけれるものは何か
『認知症は神様が人間に与える最後の贈り物』
という言葉を聞いたことがある。
この言葉は立場によって賛否両論だと思うが、
思い出を忘れていく人間にとっては、後悔や情念などを失い、
生きていた人生の中で忘れ得ない幸せな思い出だけが残るのであれば、それは本当に幸せなことなのかもしれない。
作品の中で日記が出てくるが、
日記として書き留めていても忘れてしまう事は多い。
しかし、忘れ得ない一瞬というものは書き留めていなくとも決して忘れない。
きっとそこには凝縮した幸せが詰まっているものなのだろう。
だからこそ、日記に記された【現実日々の過去】という価値が、それぞれの立場からの価値対比として見事に表現されているのも巧妙だった。
人は誰しも生きていれば多くの後悔や苦しみを抱えて生きている。それはその思いが強いほど多くが記憶に根付いてしまう。
「あんな一言、言わなければよかった」とか
「もっとこうしておけばよかった」とか
「こんなに自分は我慢してるのに」とか∙∙∙。
でも、そこには相手に対する
”思いやり” や ”愛” が根底にあるからこそなんだ。と
この作品を観て気付かされ、考えさせられた。
愛する人との記憶というものは本当に儚く、
自欲によって塗れているものかもしれないが、それは決して悪くない。
大事なのは、大切な人の記憶の中に存在することが価値なのかもしれない。
ワンカットワンシーンの技法であったと聞きましたが
時間が記憶や感情と共に流れて溶け込むような没入感からの
ハッとさせられるアップの表情に 何度も何度も感情が揺さぶられ、
菅田将暉さん、原田美枝子さん、長澤まさみさん
それぞれがそれぞれの思いを抱え交差していく感情の表現が、
本当に繊細で素晴らしかったです。さすがでした。。
ラストに向けての展開回収は勿論ですが、
主人公の泉が携わっていた仕事のラストのくだりも秀逸でした。
記憶って曖昧だが、美しく、愛に満ち溢れている。
これは曖昧だからこそ。なのかもしれない。
現代問題や近代的な要素もしっかり取り入れられてますが、
まるで文学作品みたいな作品でした。