「切ない…けど、考えたいこと。」百花 humさんの映画レビュー(感想・評価)
切ない…けど、考えたいこと。
画面の世界で記憶を増やし能力を増すAIに関わる仕事をしている泉。
一方、実家にいけば
目の前にいる母はだんだんと記憶をなくし、会話や、家事に支障が目立ちはじめ1人暮らしが心配な状況になっている。
この二つの真逆とも言える状況がまず重くのしかかってきた。
それだけでなく、
冒頭あたりから母子でいても、夫婦でいても、泉は家族関係にどこか諦めたようなドライな空気を持ってるなと思った。
それは幼少期の心の傷跡。
母が自分をおいていなくなったことの癒えない傷の深さがつくる影だったのだろうとあとでわかる。
だから、
母から母が失われていく姿を感じるのは、
自分の感情を始末できないままの自分でいる焦りとして
跳ね返り爆発したのだ。
海辺で母に叫んでしまう泉。
しかし、
目の前の息子に叫ばれた母は母でありながら昔の母ではないのだ。
ふたりに漂う質の違うやるせなさ。
暗い波の色が現実を物語る。
その後、施設に入ることになった母の荷物の片付けで
泉はたくさんの覚書きのメモ、大切にとってあった男からの贈り物、母のその頃の本心がかかれていただろう手帳をみつけながら、かつてを思い出す。
母と行った魚釣り、一輪挿しの花瓶、一輪の花、ビスケット…
そして最後に
昔の家の縁側から建物のむこうにみえた半分の花火をみる。
これこそ、
母の消えゆく記憶の中で大切にしてた泉とみた花火だ。
ようやくそれを思い出したとき
傍の母の焦点定まらず発する言葉もない横顔。
そこにいるのに、同じ時空にいない淋しさ。
けれど、母の認知症をきっかけにして
泉がようやくその愛の断片を寄せ集めれたのも事実。
つなぎあわせたそれを胸にしまって父となった自分を今から生きていく。
きっと、泉はここから
母や家族に対して本当の意味で優しくなれるんではないだろうか。
…というほのかに期待できる余韻があった。
認知症があらわれはじめた家族が頭によぎり続け、私には現実的でせつない鑑賞時間でした。
小さな子を残して出て行く母の行動に
賛同は全くありませんが
親であれ、子であれ まわりの人は
AIではない生身の人間。
尊重して向き合うこと、についてしばらく考えています。
(修正、追加あり)