劇場公開日 2022年9月9日

「原田と菅田の、迫真の演技が心を離れません。」百花 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0原田と菅田の、迫真の演技が心を離れません。

2022年9月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 次々にヒット作を生み出している映画プロデューサー、脚本家の川村元気が、実体験を基に書いた小説を原作に、初めて長編映画を監督しました。認知症を患った母親とその息子、それぞれの物語を交互に描いていきます。

 レコード会社に勤める葛西泉 (菅田将暉)とピアノ教室を営む母・百合子(原田美枝子)は、過去のある「事件」を機に、互いにわだかまりを抱えたまま暮らしていました。 そんな中、百合子が認知症を発症。日に日に記憶を失っていく一方、泉は母親との思い出をよみがえらせていくのです。

 物語は、泉が母の日記を通じ、「事件」の真相を初めて知ることで大きく動き出します。百合子が繰り返しつぶやく、「半分の花火が見たい」という言葉の真意を、泉と一緒に観客に探らせながら。

 ワンシーンワンカットは序盤はやや無理が目立ちました。なによりも展開が遅く感じられて、認知症を扱った映画をより重く感じさせたのです。ただ終盤に向かうほど結実。いわゆる“認知症の映画”という枠からもいい意味で逸脱し、一人の女性の生々しい生の瞬間と喪失のはかなさに迫っていきます。
 母の胸にずっと生き続けてきた目に見えないものを映し撮ろうと真正面から挑み、これまでにない女性映画となりました。

 また母への葛藤が和らいでいく泉の心の動きや、記憶を失いながらも息子への愛を貫く百合子の切実さに触れ、親子とは何かを考えさせられました。母と息子の何気ない日常や夫婦の会話からふとした思い出がよみがえり、しまい込んでいた記憶を取り戻したような感覚を味わえることでしょう。それにしても記憶を失う母と、母に向き合うことでかつての記憶を取り戻していく息子の何と皮肉な取り合わせなんでしょうか。

 実家の机に置かれた一輪の黄色い花、親子で一緒にビスケットを食べた思い出など、伏線めいた、過去の記憶に関わる場面の差し込み方が巧みです。2人の心境の変化がよく感じとれた上、ラストの感動が増幅されました。
 極めつきは、泉のことが判別できなくなり、少女のように駄々をこねる百合子に、泉が「なんで忘れてんだよ、こっちは忘れられないんだよ」と叫ぶシーン。原田と菅田の、迫真の演技が心を離れません。

流山の小地蔵