「シルエット描写の美しさと、認知機能の低下を表現した映像の恐ろしさが印象的な一作」百花 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
シルエット描写の美しさと、認知機能の低下を表現した映像の恐ろしさが印象的な一作
本作の監督で、原作者でもある川村元気は、これが劇場公開長編映画とは思えない手腕を発揮しています。前半部では百合子(原田美枝子)の認知機能が低下していく過程を、後半では百合子が口にする「半分の花火」という言葉の意味を探る物語が展開していきますが、原作者の強みか、要所を的確に押さえていて、中だるみを感じさせることなく物語を引っ張っていきます。
本作では恐らく意図的に登場人物がシルエットになるように撮影されており、その表情は時としてうかがい知ることができません。それだけに、和泉(菅田将暉)が、特に母親に対してどのような感情を抱いているのか、百合子の意識が今どこにあるのかが一つの謎となっています。そして人物がシルエットとなることで、背後の情景の美しさが印象的に際立っており、「光と影の対比」が本作全体の映像的特徴となっています。
百合子の認知能力が低下していく過程を示す映像は、映像を観る側の感覚を利用した実に巧みな仕掛けが施されており、記憶の整合性がとれなくなるのはどういうことなのか、その一端を垣間見させてくれて、それほど派手な演出ではないものの、背筋が寒くなる感覚を覚えることは間違いありません。映し出された映像の信頼性が揺らぎ、それが自らの認識の不安定感に繋がる、という手法は、明らかに『ファーザー』(2020)などを踏まえていると思われますが、それらを見事に消化して、本作独自の映像世界として提示しています。
ポスターにも用いられている印象的な黄色は、文字通り本作のキーカラーとなっていて、どこに黄色が用いられているのかを意識しながら観ても面白い作品となっています。良質なドラマ、というだけでなく、映像技術、カラーコントロールの観点からも非常に見所の多い作品でした!