劇場公開日 2022年9月9日

「「記憶」を巡るせっかくの仕掛けが機能していない」百花 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0「記憶」を巡るせっかくの仕掛けが機能していない

2022年9月9日
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劇中、記憶を詰め込みすぎたAIの歌手の失敗によって、「忘れることは人間らしさでもある」ということが語られるが、確かに、人というのは、自分にとってインパクトのあること以外は忘れてしまうものなのだろう。
その点、認知症になった母親が、最後までこだわった「半分の花火」と「一輪挿し」が、彼女にとって最も大切な記憶であったということはよく理解できるし、息子がその理由を知って、自分に対する母の愛に気付くという物語の構造にも納得できる。
しかしながら、そこに持っていくまでの物語の流れには、違和感や不自然さを感じざるを得なかった。
例えば、母の日記から、母が愛人と駆け落ちした状況が明かになるが、そこでは、母の心情が語られないし、一人残してきた息子を心配する気配もない。さらに、阪神大震災が起きなければ、母が息子の元に戻ったかどうかすら分からないのである。そんな神戸のエピソードには、本当に必要だったのかという疑問が残る。
物語の核心とも言うべき「半分の花火」にしても、息子が覚えていなかった(忘れていたのを思い出した)というのは不自然だし、「一輪挿し」に至っては、息子が思い出したのかどうかすら明かでない。
こうした語り口から、母が大切な記憶以外を忘れていく一方で、息子が大切な記憶を思い出していくという仕掛けが、十分に機能しているとは思えなかったのは残念だった。

tomato