「地獄で会った狂犬バディ」ヘルドッグス 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
地獄で会った狂犬バディ
『関ヶ原』『燃えよ剣』の原田眞人監督と岡田准一が、3度目のタッグで現代アクション初挑戦。
警察vsヤクザで、潜入捜査モノ。
プロット的には映画十八番のジャンルだが、原田監督“らしさ”も相まって、よくある同ジャンルとは一線を画す作品となった。
潜入捜査モノは古今東西。
香港映画の名作で同ジャンルの傑作でもある『インファナル・アフェア』、それをハリウッド・リメイクした『ディパーテッド』。人種問題を織り込んだ『ブラック・クランズマン』。
海外に比べ邦画は数多いとは言えないが、コメディとして描いた『土竜の唄』。
そもそも日本では潜入捜査は認められていない。その上で、本作は邦画で異色ジャンルを描いた際の違和感を排し、スタイリッシュでクールな洋アクションを意識した作りとなっている。
幾つかの潜入捜査作品を例として挙げたが、特に彷彿したのは韓国映画の『新しき世界』。
潜入捜査の過程で出会った組織の一員との男二人の絆、内部抗争、交錯する駆け引き、警察の思惑、主人公ののし上がり、ラストシーンは主人公二人の出会いのシークエンスで締め括る。
邦画に於いて警察vsヤクザでは『孤狼の血』が近年あったが、潜入捜査モノでやっと気合いの入った本格的な作品が登場したと言えよう。
主人公像も異端だ。
大抵潜入捜査する主人公(刑事)は多少訳ありでも、正義感を持っているキャラが多い。展開していくと共に任務を続ける中で極限状態に追い込まれ…。
が、本作の主人公・兼高はすでに“堕ちている”。
元警察官。過去のある事件をきっかけに正義も人間的な感情も捨て、ヤクザへの復讐のみに生きている。度々回想シーンとして挿入されるも、ちと感情移入出来るまでの描写に欠けた気もするが、その無鉄砲さ、怖いものや命知らずが警察組織から目を付けられ、潜入捜査という危険任務を命じられ…。
兼高が接近し、バディを組むのが、“サイコボーイ”と呼ばれる若いヤクザの室岡。警察のデータ分析で二人の相性は98%!(…って、どんなデータ分析??)
毒には毒を。強大ヤクザ組織には狂犬コンビを。
再三、日本ではリアルで絶対あり得ないかもしれないが、それを前提に、“狂犬コンビによる潜入捜査”という面白味と魅力を抑えたアクション・エンタメになっている。
岡田准一が出演している作品のレビューを書く時いつも言っている気がするが、そうなのだからしょうがない。
アクション!
現邦画アクション・スターの代表格である、その繰り出すアクションの数々はもはや頼もしさすら感じる。
格闘デザインも担当し、キャラごとに殺陣を変えるこだわりようだとか。劇中のアクションの数々も華麗で迫力あるというより、リアルで痛みを伴う。血湧き肉躍るだけじゃなく、怖さすら感じさせる。
岡田准一にとってアクションは演技やキャラ表現の一つ。加えて、重厚な演技力も申し分ナシ。日本が誇るノースタント・アクションスター代表として、トム・クルーズに見出だされハリウッド・デビューして欲しいくらいだ。
そんな岡田のアクション指導に鍛えられてか、坂口健太郎も新境地開拓。
今春公開の『余命10年』など恋愛映画や青春映画での好青年のイメージが強く、本格アクションも本作が初。岡田との“相性98%”の男臭いバディやり取り、濡れ場や鍛え上げられた肉体美も披露。何よりハイテンションで、暴力に恍惚の表情を浮かべる怪演が印象的。これまでのどの役よりも魅力的でセクシーさも滲ませ、初めて彼に男惚れも感じた。
にしても、冒頭の岡田と坂口の格闘訓練シーンはもはやドキュメンタリーみたいに見えて…。
他キャストではやはり、MIYAVIだろう。
潜入するヤクザ組織の、異例の抜擢でのし上がった若き会長・十朱。ゴリゴリの強面ヤクザとは違う、寧ろこういうインテリヤクザの方が恐ろしいと思わせる不気味さと不敵さと非情さ。あのハイキックは圧巻!
北村一輝、村上淳、酒向芳は『沈黙のパレード』とキャスト被り。あちらとは対照的な役柄を各々巧演。
男臭い世界の中で、松岡茉優、木竜麻生、大竹しのぶらも印象残す。
はんにゃ金田も光り、個性派キャストと一癖二癖あるキャラがしのぎを削る。
台詞の応酬、早口、快テンポの展開はすっかり原田監督のスタイル。
インテリで気取ってるとも揶揄され、時折賛否分かれる原田監督のこの演出スタイルだが、時代劇前2作より本作に合っていたと思う。
監督自身も本格アクション初挑戦。もっとバリバリのアクションで、東映ヤクザ映画の流れを汲む…と思いきや、そう非ずなのが原田監督らしいミソ。
バイオレンスなアクションもあるが、それ以上に主人公らの野心、組織内で交錯する思惑、駆け引き、スリリングなドラマに重点が置かれている。ここら辺、社会派作品で振るった手腕の賜物。
アクション・エンタメではあるが、万人受けするような取っ付き易い作品ではない。『孤狼の血』のようなKO級インパクトにはちと欠ける。早口台詞は聞き取り難く、展開に追い付いていくのもやっとで、原田監督のこの作風はやはり好き嫌い分かれるだろう。
でも、危険で熱い世界観にしびれる。
十朱の側近となり、組織内でのし上がっていく兼高と室岡。
周りは敵だらけ。気に食わない者、不審者、裏切った者には死を。
素性が調べられ、遂にバレる。しかもそれが、バディにも知られる…。
驚愕の正体。実は十朱は…。松岡演じる兼高とも関係を持つ幹部の愛人・恵美裏は…。
潜入捜査の目的は、“秘密ファイル”の奪取。その内容は…。
警察組織とヤクザ組織。どちらが善で、どちらが悪か。
生き残るか、死ぬかだけの地獄のような世界。
信頼出来るのは自分か、バディか。
過去に苦しみ、復讐に生き、警察に使われ、飢えた野獣の巣窟に放り込まれながらも己の度胸と腕力で地位を築き、その中で見つけた“絆”…。
が、それも…。確かなものだった絆に終わりが訪れ、対する事に…。
それだけに、ラストシーンの“出会い”が悲しく、切ない。