「強力な護送船団(キャスト)で伊藤健太郎の船出を企てた阪本順治監督に無条件降伏」冬薔薇(ふゆそうび) カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
強力な護送船団(キャスト)で伊藤健太郎の船出を企てた阪本順治監督に無条件降伏
冬薔薇🌹と書いてふゆそうび。
谷村新司の群青(映画連合艦隊の主題歌)の歌詞に出て来ますが、当時は全く気にしていなかった。
意味もちゃんと知らないのに、昔、何度カラオケでやったことでしょう。群青のカラオケ映像は暗い海に降りしきる雪。こちらは薔薇の花に雪が降り積むカットシーンでした。
そんなウカツで思慮の浅いワタクシですので、ジュンのことを一方的に責められるわけがありません。おバカなことは30過ぎてもやっていましたから。
土砂運搬船会社を経営する渡口夫妻には二人の息子がいた。可愛い盛りにお兄ちゃん(アツシ)をガット船での転落事故で死なせてしまった。親父の代からの長い付き合いの機関士を演じるのは石橋蓮司。船の中で暮らしている。ギャンブルで妻子から捨てられて、ひとり。その他、船員には伊武雅刀、笠松伴助。ガット船の小林薫は操舵席のマイクでメシ!と一言。船のキッチンでまかないを作り、四人一緒に食べるのをとても大事にしている。家庭のことは棚にあげて。彼にとっては唯一息抜きできる時間で、いわばシェルターなのだと思う。余貴美子の母親は港のバラックの事務所を切り盛りしている。アツシの死後、ジュンの育て方を間違えた様子。お互いに口を開けば、責任を擦り付けあい、平行線。
母親役の余貴美子がせっせと薔薇の世話をするのは尽くし甲斐のない旦那と息子の代わり。石橋蓮司が先代の奥さんは事務所のまわりを花でいっぱいにしていたと渡口に思い出話をしたのをきっかけに渡口が買ってきた苗だった。
ジュンは忍耐力ゼロ。何をやっても続かない。場当たり的行動。見栄っ張り
で嘘つき。不遜な言いぐさ。金づかいはルーズ。返せる当てもないのに借金する。人の良心につけこんで騙すことに罪悪感なし。誠意がないので、親友はいない。一方で、他人に依存し騙されやすい。ちゃんと人と話せない。
ゲン(毎熊克哉)が一番ちゃんとしていて、カッコいい!トモカ(河合優美)がゲンのひとり娘を抱いて車で逃避行のシーンだけがなぜか希望の灯りが見えたような。毎熊克哉と河合優美のセリフがキレキレ。
澤地さん(和田光沙)。実年齢も健太郎とは一回り以上も上。世話を焼きたくなっちゃうんだよね。健太郎君可愛いもんね。くさいジュンの芝居。ホントにヤベー奴。
眞木蔵人(余貴美子の弟役)と板東龍汰の親子はけっこうなくせ者だった。ヤクザに頼んで示談にした?息子のかたきをとる?
でも本当にくせ者なのは、健太郎に当て書きした脚本を書いて、このキャストを集めた阪本順治監督ですね。
感服しました。完敗です。
まだまだ無限に出口のない日常は続き、悪いこともまだまだ続きそう。
それでも母親は黙って冬に咲く薔薇の手入れをするんでしょうね。
追記
小林薫と余貴美子は深夜食堂のマスターとマスターにほの字の料亭の女将役をスライドしてきたのか?船の中でまかないを作る小林薫をみていると、ついそう思ってしまいます。「あいよっ」て言わないだけで。でも、「どうよ!焼きそば」って言ってたような。二人の演技は惰性と諦めにどっぷり浸かった夫婦のやるせなさが良く出ていました。さすがですね。