「どこにも居場所を見つけることができない男」冬薔薇(ふゆそうび) ナイトクローラーさんの映画レビュー(感想・評価)
どこにも居場所を見つけることができない男
ドストエフスキーの「地下室の手記」の中で、主人公の独白にこんな部分があります。
『わたしは単に意地悪な人間ばかりでなく、結局なにものにもなれなかった。悪人にも、善人にも、卑劣漢にも、正直者にも、英雄にも、虫けらにもなれなかった。(青空文庫より引用)』
どこにも所属することができない人間はいつの時代にも一定数いると思います。
この映画の主人公もまさにそれで、どこかに行きたい、誰かに必要とされたい、成功して周りに認められたいという本心がありながらも、あまりにも自己中心的な性格のせいでどこにも所属できず、何者にもなれずにいます。
それどころか自分の言動のせいで、周りの人間を不幸にしたり、傷つけたりしてしまう。
こういう人、いるよねと思わせる主人公でした。
ただ単に生きているだけで、悪い意味で周りに波紋を与えてしまうような人間がよく描けていると思いました。
この映画が万人ウケするかと言われればそうは思えませんが、邦画の中では佳作に入ると僕は思います。
オリジナル脚本だということですが、もっと書き込んだ小説にならないかなぁ、とあり得ないことまで思ってしまいました。
それはそうと伊藤健太郎さんの復帰は個人的には歓迎です。彼には才能があると思います。
以前のような軽いノリの作品には出づらくなっただろうし、お茶の間で再度受け入れられるのにはもう少し時間がかかるかもしれない。
しかし、別の視点から見れば、本当に実力が問われているのは今だと思います。
もっと色々な映画に出て、演技の幅を見せることができれば、きっと今回の再起は成功するのではないかと思います。