劇場公開日 2022年3月12日

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「アートセラピー」スターフィッシュ Minaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アートセラピー

2024年9月29日
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本作は、SFと評されながら実話に基づく物語と冒頭で明記されているが、人が突然いなくなり、不気味な生物が闊歩する世界が実話?と置いていかれる事間違いなしである。
だが本作は観客を満足させる為のエンターテインメント作品ではなく、監督自身の実体験を元にする想像上の物語であり、それが監督自らのアートセラピー映画となっている。監督と作品はもはや一心同体そのもの。過去にも監督の心情等が作品に反映された作品がいくつか製作されているが、ここまでそれをさらけ出した作品は無いだろう。本作の主人公が体験する、親友の死。別れを偲ぶ会で馴染めずに、足早に立ち去り、今は亡き親友の家に侵入し、どこか落ち着かない1晩を過ごす主人公の描写があるが、これがA.T.ホワイト監督が体験した「実話」にあたる。親友の死というものが相当大きな傷を残したようで、何を聞いても何をしても心の空白が広がるばかりという心情を強く表現している。そして翌朝、突然雪が積もり、人の姿が無い街に蠢く謎の怪物。そして、トランシーバーから聞こえる他者の声と、親友が残したメッセージ、「このミックステープが世界を救う」。ここからが心情を色濃く表現した世界となっていく。あくまでも心の出来事の為、物語に信憑性や起承転結は存在しないのである。だから途中で手塚プロが製作したアニメ部分があったり、観ていて意味が分からない展開が多いのである。だが、それでも世界を救うために散りばめられたミックステープを探す主人公を見ていて何となくこれらの描写に説明がつくだろう。ここでは世界=自分自身という事になっているのだ。閉ざされた心の中でショックや未練を断ち切り、新たな世界(自分)を見つけるまでの壮大な冒険。あのラストが語ろうとしているのはそれを具現化したものなのだと解釈している。それ故に物語として不条理な世界が本作ではまかり通るのである。突然本作の実際の製作現場へ舞台が変わるという映画作品では中々有り得ない展開が目白押しとなっており、この世界観について行けなくとも、映画作品での新しい挑戦という視点で観ると注目ポイントがちらほら出てくる。別にこちらは心を病んでいない為、これを見て心の整理がつくのは監督だけだろうから、それを観させられた我々は「だから?」と思ってしまう節もあるかもしれない。よって本作を他人におすすめ出来るかと言われたら難しい。だが雰囲気で他作品とはひと味もふた味も違う本作の沼にどっぷりハマってしまうファンもいるだろう。不思議な体験をしたと思い、余韻に浸れる人、とんだゴミクソ映画だと劇場を去る人の両極端で好みは分断されるはずだ。批評家からの支持は熱く、観客からの評価が冷たいというなかなか癖のある注目をされそうな作品である。監督の心情が明るく変化したのが分かるのは次回作になるのだろうか。次回作は夢と希望とに溢れた作品になっていることを願う。

Mina