「現実とも妄想ともつかない世界を彷徨う主人公は映画の外にも足を踏み出す、極めて個人的な体験を綴った奔放にも程がある物語」スターフィッシュ よねさんの映画レビュー(感想・評価)
現実とも妄想ともつかない世界を彷徨う主人公は映画の外にも足を踏み出す、極めて個人的な体験を綴った奔放にも程がある物語
親友グレイスの葬儀に参列したオーブリーが目覚めると外は一面の雪、人影がなくなった街には得体の知れぬクリーチャーが。グレイスが世界がこうなることを知っていてオーブリーだけがわかるように街のあちこちに世界を救う信号を忍ばせたカセットテープを隠していることに気づいたオーブリーはたった一人で街を徘徊する・・・何となく『ザ ・バットマン』っぽい推理サスペンスの様相を呈するわけですがそんな単純な話ではなく、オーブリーがある想いに取り憑かれて苦悩していることが冒頭から断片的なフラッシュバックで示されていて、物語は現実とも妄想ともつかぬ世界を行ったり来たり、ついには映画の外にも飛び出す。ド田舎で孤独な戦いに挑む姿は『バーバラと心の巨人』、世界の危機なのに幻想的な優雅さが漂う街の景色には『モンスターズ 地球外生命体』に通じる耽美が滲んでいましたが、エンドロールでギャレス・エドワーズへの謝辞がしっかり記されていたのでそこに映っていた全ての不条理がストンと胸に落ちました。
“事実に基づく物語”と冒頭で宣言しているのにそこに映っているのは幻想的な刹那。突然挿入される手塚プロダクションによるアニメパートや、劇中の映画館の壁には『時計じかけのオレンジ』のポスターといった断片も何かを問いかけてくるかのような多様性を纏った作品。監督の極めて個人的な物語を追体験させられたということでしょう。
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