「マタニティーブルー 静かな湖畔の森の影から言い知れぬ不安と恐怖がしのびよる。」マザーズ レントさんの映画レビュー(感想・評価)
マタニティーブルー 静かな湖畔の森の影から言い知れぬ不安と恐怖がしのびよる。
アリ・アッパシの長編デビュー作。この監督の力量をこの頃からうかがわせる。映像美や物語に巧みに入り込ませる演出力、どれもとてもデビュー作とは思えぬレベルの高さ。
自然に囲まれた静かな湖畔に立つ家に家政婦としてやってきたエレナ。カスパーとルイスの夫婦が暮らすその家には電気水道もなく自給自足での暮らしをしており、妻のルイスは少々風変わりな女性だった。
大病を患ったせいかルイスは何かスピリチュアル的なものに傾倒しており、ヒーリングの施術を受けている。はじめは変わり者と思っていたそんなルイスとも打ち解けてゆくエレナ。しかし彼女は夜ごと、どこからともなく赤ん坊の泣き声や獣がうめくような声がするのを耳にする。
ルイスからの代理出産を承諾して妊娠したエレナの身にはさらに異変が起きる。前身のかゆみに襲われたり毛髪が抜けたり、次第に悪夢にもさいなまれてゆく。
身ごもった子供が自分を苦しめているのだと奇行を繰り返すようになり、ついには自ら危険な堕胎行為にまで及んで命を落としてしまう。しかしが赤ん坊は無事に生まれる。
シェリーと名付けられた女の赤ん坊。ルイスは満足していたが、今度はカスパーの身に異変が起き始める。エレナが耳にしていた獣の唸り声のような音がその赤ん坊から聞こえてくる。まるで得体のしれないなにかが赤ん坊に宿ってるかのようだ。ヒーリングのレオも赤ん坊に対面した途端に姿をくらましてしまう。
この赤ん坊シェリーには我々が到底理解しえないような超自然的で邪悪な何かが宿ってるのだろうか。
エレナもカスパーも奇行を繰り返し、いなくなってしまった。しかしルイスはシェリーを一人で育てるつもりだ。彼女にとって待ち焦がれた我が子をやっと授かれたのだから。
この作品自体が我々の理屈では到底理解できないような悪夢のような現象を見せつけて観客を宙ぶらりんにしたままエンディングを迎える。そうすることでこの世にはけして目に見えるものだけではない、我々が理解できない得体のしれない何かが存在するかもしれないという不安や恐怖を観客に植え付けることに成功している。
あえてこのようにすることで観客の想像力をかき立てるような余韻を残す作品は個人的にはかなり好み。逆にそれが災いしてか、いまいち世間の評判は高くないのも理解できるけど、作品のクオリティーはかなり高いと思う。
我々の目には見えない、得体のしれないものの恐怖、我々の理屈では決して理解できないものへの恐怖を見事に描いた。
結構ショッキングなシーンもあって、驚かされた。