「☆☆☆☆ 原作読了済み。 この長編をここまで圧縮するとは! しかも...」アキラとあきら 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
☆☆☆☆ 原作読了済み。 この長編をここまで圧縮するとは! しかも...
☆☆☆☆
原作読了済み。
この長編をここまで圧縮するとは!
しかも全然違和感は無いし、映画化独自の展開も実にスムーズ。寧ろ、原作自体が持っている。読んでいる時に、所々で感じた中途半端さが解消されている。
タイトルに有る2人の《AKIRA》
自宅の工場が銀行から三行半を突き付けられる《AKIRA=瑛》と、御曹司の長男として生まれた苦悩に悩まされる《AKIRA=彬》の2人。
原作を読むと分かるのだけど。前半の1/3はほぼ【山崎瑛】の物語。
この2人は伝説の研修会で〝 再会 〟を果たすのだが、原作は以降のほとんどが【階堂彬】の話が中心となり進んで行く。
それだけに、映画化に於いて2人の《AKIRA》の話として、バディ物としての面を全面的に押し出しているのは成功だったと思う。
映画化では《竹内AKIRA》の前半部分を大幅にカット。
この2人のAKIRAが〝 伝説的再会 〟を果たすのは、700ページある原作の300ページ近くだったのに、映像化ではまだ数分しか経過していないのだから舌を巻いた。
但し、原作の前半部分をすっぽりとカットしていただけに。後半で東海郵船グループを救う救世主の1人となる、《竹内AKIRA》の高校時代の友人であるガシャポンは登場しない。
その救世主の居ない部分を。原作ではそれほど存在感が無かった《江口=不動》のクセの強い存在が担っていたのには、ちょっと驚きました。
他にも、原作だと後半に突如として登場する《上白石=水島》も。(原作にはない)あの登場場面が有るだけに、全然違和感がない。
更には、《竹内AKIRA》に影響を与える《塚地=保原》の存在。
原作では、保原が【幸運のロザリオ】を【瑛】に贈り、肌身離さず身に付けている。
そんな【幸運のロザリオ】を。父親が開発したベアリングへと変更し。それが〝 運命の出会い 〟を経過しての、エンディングを締める脚色となっている辺りも鮮やかでした。
もしも原作通りの終わり方だったならば、多くの観客には中途半端な終わり方だと感じたのでは?と思っています。
それ以外でも、多くの原作を上回る部分が有りましたが。とは言え、この物語には決定的に欠けているところが有ります。
その最たる面が、、、この物語には【巨悪】が存在しない…とゆうところ。
池井戸潤原作だと。社会に対して隠蔽体質で悪の限りを尽くす【巨悪】を倒し、一気にカタルシスに浸らせてくれるのを、どうしても期待してしまう。
それだけに、あまりにもこの物語だと。対立する人物が、所詮は偉大な父親を継承した長男に対して《妬み・嫉み》を募らせている小狡い次男の《ユースケ/晋》と。次男に追従する、プライドだけが高い単純おバカな三男《児島/崇》の精々2人だけなところ。
勧善懲悪なドラマ作りに於いて、プライドのぶつかり合いは確かに観ていても面白い。
特にテレビドラマ桟敷では、それこそ酒の肴にこれほど相応しい作りはない。
でも、それもまた諸刃の剣で有って。どれも全て面白いとは言い難く、内容によっては中身の薄さにも通じて来る。
実際に半沢直樹シリーズは、登場人物達のアクの強さも有ってお茶の間での人気を博した。
だがそれは、少なくとも初回の放送から人気が爆発した訳ではなかったと記憶している。ある意味では、笑いの対象として観ていた人も多かったのではなかろうか。
だからなのか?半沢直樹シリーズで(もはや)恒例とも言える〝 アレ 〟を、原作にはないのにかかわらず、わざわざ挿入させていたのでしょうか?
その点で言うと、映画は2時間で〝 結果をださなければならない 〟
いや、敢えて言うと序盤の20分〜30分辺りで観客の心を掴めないと、後々苦しくなって来るのかも知れない。
テレビ的な手法は、スクリーンではなかなか通用しないメディアなのでは?とも思う。
これは私個人の考えでもあるのですが、テレビで面白いのはより軽くて薄いモノ…だと。
まあ、単なる思い込みではありますが、、、
ちょっと脱線してしまいましたが。そんなテレビ的な内容に相応しい人間ドラマなこの作品。
なんだかんだと言いつつ。中盤のスーパーマーケットの失敗(映画化ではカットされている)から「今度こそ!」とばかりに、一大リゾート開発へと突き進んで窮地に陥る同族企業の悲哀で有り。それら全てが渦を巻きつつ、後半でホテル売却に伴う様々な利権やしがらみ等。複雑に入り組んだ人物相関図を、ここまでシンプルに整理しているのには、単純に「凄いなあ」と感じます。
青春恋愛映画の旗手である三木監督が描く人物相関映画…とゆう事で、鑑賞前には「果たしてどうなんだろうなあ〜」…と、少しばかり疑心暗鬼では有ったのですが。ここまで纏めた、この脚色は見事でした。
脚本を書いたのが、初めて知る脚本家だったのですが、今後にも期待したいと思わせてくれました。
原作になかった部分で、私に刺さった箇所が有りました。
終盤にて《竹内AKIRA》に対して《江口不動》が放つ言葉の1つ1つが、〝 誠実に仕事をし、社会に貢献している全ての人達への賛歌 〟と言える。それらの言葉こそが、この物語に於ける最大にして最高な〝 本質 〟を表していたのだろう…と。
2022年 8月26日 TOHOシネマズ上野/スクリーン3