「『瑛』と『彬』の物語り」アキラとあきら ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
『瑛』と『彬』の物語り
珍しく、原作既読。
なので映画化の報に接した時に、
例えば「集英社文庫」であれば上巻:382ページ、下巻:335ページの長編を、
どのように二時間程度の尺に納めるのか、
自分なりにおこがましくも考えてみる。
幸い、上巻の~281ページ迄は主戦場となる銀行に入る前のいきさつ。
ここをバッサリと切ってしまい、重要なエピソードのみをピックアップし適宜挿入、
冒頭は最もインパクトのある、入行時のプレゼンシーンから始めるか、と
予想する。
果たして実際の映像は、ほぼほぼ想定通りに進む。
善し善しと、自己満足的に、独りごちるのだが・・・・。
とは言え、元々にある熱血の部分はそのままに、
『瑛(竹内涼真)』と『彬(横浜流星)』の初めての出会いに代表される場面の様に
強くインプレッションを残す改変は随時行われている。
脚本の『池田奈津子』の手際の良さに感心する。
ストーリー自体は『池井戸潤』お得意の企業モノ。
「アキラとあきら」の共闘により、一つの大企業グループが
倒産の危機から救われる。
あからさまな悪人が出て来ないのも特徴の一つ。
グループ企業の一角を担い
陰謀を企て、主人公達に敵対する
『晋( ユースケ・サンタマリア)』と『崇(児嶋一哉)』ですら
一族の頚木から逃れきれなかった悲哀を纏っている。
また、『瑛』の上司の『不動(江口洋介)』にしても
企業の存続を第一に考え、そのためには時として非情なスタンスとなるのは当然。
前者で思い出すのは、ある外資の人から聞いた実話。
某年の入社試験に、その名前から一目で判る、日本の老舗企業の跡取りが応募して来た。
その会社の跡継ぎは、※※に入社して修行。
何年か後には、一族の会社に戻るとのレールが敷かれている。
自分はそこから外れてみたい、との応募動機。
もっとも、結果その願いが叶えられることは無かったよう。
華麗な一族の出自は、思いの外窮屈な籠の鳥であるとのエピソード。
一方、後者であれば、ステークホルダーに対しての思いは強烈。
それを裏打ちする科白が頻出する。
一人一人の行員が個人から小さいお金を預けて貰うことで
銀行は成り立つとの言が右代表。
しかし、実際に銀行を利用する側からすると、
個人の預金者や、小企業の経営者は
さほど手厚く扱われているとの体験は無いように感ずるが。
とりわけ金利ビジネスから手数料ビジネスに変容した昨今では
その思いが強くなる。
いみじくも、これも劇中の言葉
「金は貸すほどあるのに、
必要な時は貸さずに剥がしにかかり
不必要な時には貸したがる(意訳)」に代表される。
あくまでも大企業に向けた建前に思えてならない。
とは言え、主人公二人の強い意志が周囲を巻き込み共感させ、
変革を成し遂げて行く過程は爽快。
また、彼らの根底に在るスタンスは、
弱い者を率先して切り捨てて行くイマイマの世情への
強烈なレジスタンスに思える。