「アニメ制作現場の熱気に満ちたぶつかり合いが観る者を惹きつける」ハケンアニメ! 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
アニメ制作現場の熱気に満ちたぶつかり合いが観る者を惹きつける
クリエイティブ系の仕事では、さまざまな専門職が一つの仕事に介在するから、職種間の軋轢が生じがちである。
本作はTVアニメーションの制作現場を描いたもので、監督とプロデューサー、シナリオライター、アニメーター、声優、彩色担当等がガンガンぶつかる。監督を追い込むプロデューサー、妥協せずに我儘を貫く監督、それに引きずられるスタッフの火花飛び散るぶつかり合いがとにかく面白い。
ギリギリになってのコンテ変更にもう間に合わないと怒鳴るスタッフ、脚本を変えるのかと凄むシナリオライター、納得いくまで声優に同じセリフを繰り返させる監督、泣きだす声優、徹夜の連続による疲労から不機嫌で喧嘩腰のアニメーター…これらのシーンが観る側をぐいぐい惹きつける。
なおかつ、有名アニメへのオマージュが随所に盛り込まれ、TV局で番組担当者らが円形のテーブルに陣取り、プロデューサーの尾野を詰問するシーンは、いうまでもなく「新世紀エヴァンゲリヲン」のパロディである。
新人監督の声優とのコミュニケーション不足を指摘する箇所では、「心を開かないとエヴァは動かないぞ」と笑わせる。
この混沌とした制作現場からやがて徐々に作品が形を取って現れ、2つの作品の視聴率レースの行方に興味をつないで飽きさせない。
キャストでは、飄々とした天才監督を演じる中村と、女性新人監督を徹底的に追い込むプロデューサー柄本が実に格好良くて魅せられる。吉岡、尾野も熱演だ。
ただ、劇中劇として作品に挿入されたアニメ作品2本は、概要が細切れにしか分からないが、面白そうでなかったのは残念な限り。「自分を絶望させられるのは」云々というキメ台詞も、ちょっと痛い。
CSで放送されたので何の気なしに見てみたら、いやあ面白いこと面白いこと。本作の興行収入は1.8億円で、同年の映画ベスト100にも入らなかったとは信じられないくらい、いい作品だと思う。
日本ではアニメ映画は流行るが、アニメ制作の裏話を描いた実写映画は流行らない…か。