「ウタノチカラ」ONE PIECE FILM RED 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ウタノチカラ
『ONE PIECE』劇場版15作目。
昨夏に公開されるや否や、昨年を代表するNo.1メガヒット作に。
興行収入はそれまでシリーズ最高だった『~FILM Z』の68・7億円を軽々と超え、197億円。これは国内歴代8位の成績。
東映としても過去最大のヒット作となり、このお陰(と『THE FIRST SLAM DUNK』)で東映は昨年、年間成績も過去最高に。その大半がこの『~FILM RED』で、それどころかそれまで東映の最高だった2009年度の年間成績を本作一本で上回ったほどなのだから、オッタマゲ~!!
絶好調続く東映だが、今年は創立70年記念作の『レジェンド&バタフライ』が期待外れに終わり、約80億円の製作費を全額投資してハリウッドで実写化した『聖闘士星矢』が超コケ…。依然『~SLAM DUNK』がロングランヒットしているとは言え…と、それはさておき、
元々国民的人気作だったが、このモンスター級のメガヒット、一体急に何が起きた、『ONE PIECE』!?
『ONE PIECE』もいよいよクライマックスへ向けて航海始めたという。このメガヒットはその盛り上がりの表れ。
衰えぬ人気の『ONE PIECE』だが、何度も言っているように私は原作漫画もアニメも未見の非国民。一応劇場版だけ見ている邪道者。
大まかな設定やキャラもかじった程度。おそらく今回もTVシリーズと地続きで、初めましてのキャラも。今回のキーキャラのシャンクスが、ルフィが海賊になるきっかけとなった憧れの存在である事は辛うじて知っていた。
そんな程度のにわか…どころではない、ほとんどビギナー。いつもながらのビギナー視点の『ONE PIECE』レビュー。
間違いや指摘はご容赦を。
音楽の国“エレジア”。今この国で、一人の歌姫のライヴが開催されようとしていた。
彼女の名は、ウタ。一切姿を現さず配信などで歌声を届けていたが、初めて公の場に。
彼女の歌声は世界や聞く人々を幸せにする。だから皆、アタシの歌で“新時代”へ行こう!
観客の中に、麦わら海賊団も。
思わぬ再会。
何と、ウタとルフィは幼馴染み。よく子供の頃、勝負したっけなぁ。お互い、連勝中と言い張ってるけど。ルフィの負け惜しみ~!
さらに何と、ウタはシャンクスの娘。昔は赤髪海賊団の音楽家として、シャンクスと共に。でも、今は…?
そんな彼女を狙う輩が…。
世界的人気の歌姫で幼馴染みのヒロインをルフィが守る。よくあるそんな話だと思っていた。
違っていた…。
ウタが目指す誰もが幸せな世界。
大海賊時代の世界に、そんな世界が存在するのか…?
存在し、存在していない。
エレジアはまさにそんな理想の世界に一見思えるが、現実の世界ではなかった。
それを創り出したのは、何とウタ!
“ウタウタの実”を食べ、能力者となったウタ。
ウタの歌を聴いた者は眠りに落ち、この夢の世界“ウタワールド”へ。
ここには争いも無く、皆平等。悩み苦しみも無く、ずっと平和で幸せにいられる。
素敵な事のように思えるが、結局この世界は虚構で、現実世界から逃げているに過ぎない。いや逃げているではなく、ウタによって強制的に誘われた。
己の力でウタワールドから脱出する事は出来ない。
ウタが眠れば皆現実世界に戻れるのだが、“ネズキノコ”を食べウタは眠らない身体に。
それどころか、ウタは命が危うい。もしウタが死んでしまえば、皆ウタワールドに閉じ込められたまま。
それでいいじゃない。一生この幸せな世界で幸せに生きようよ。
賛成! 辛いだけの現実世界に戻る意味はあるの?
反対! 我々の人生を返せ!
どうしてそんな事を言うの…? 元の世界に帰りたがるの…?
あんな…海賊がのさばる世界に…。
ヒロインがまさかのヴィラン。
それを知ると、あの魅力的な曲“新時代”もちょっと怖く聞こえてくるような…。
『エルム街の悪夢』の如く、夢の世界では最強のウタ。海軍は一切手も足も出ず、天竜人すらも従わせる。世界政府の権力者たちもウタの存在を危惧。(“世界政府”や“天竜人”は初耳)
あんなにシャンクスを慕い、あんなに赤髪海賊団の音楽家である事を誇りに思い、あんなに海賊が好きだったのに…。
ウタに何があった…?
幼い頃シャンクスらと訪れたエレジア。
披露した歌声に人々は魅了され、国王ゴードンはこのままこの国に留まって欲しいと願ったほど。
ある夜、エレジアは壊滅。
炎に包まれ、民の命や金品を奪ったのは…、シャンクスら赤髪海賊団。
ウタは置き去りに。
海賊やシャンクスを許さない。
そんな憎き海賊どもが居ない世界へ。
シャンクスがそんな事するわけない! ルフィは言い張る。
が、憎しみに囚われたウタは聞く耳持たず。
にしても、悪魔の実を食べたからと言って、ウタにそんな恐るべき力が…?
元凶があった。
ウタウタの実を食べた能力者が歌う事によって、エレジアの奥に眠る“禁断の楽譜”から魔王“トットムジカ”が解放。
そのトットムジカの魔力に囚われた事により…。
トットムジカによる惨事は昔にも起きていた。
あのエレジアの壊滅…。
何も知らなかった幼いウタが歌った事により、トットムジカが復活。国を滅ぼした。
シャンクスらの活躍でトットムジカは封印されたが、幼いウタがそれを知るのは酷過ぎる。
国を滅ぼしたのは赤髪海賊団。ウタをゴードンに託して。
全ては愛娘を守る為に。
実はウタはある時から事情を知っていた。
自分の歌声が魔王を復活させ、国を滅ぼしたという事を…。
そんな苦しみから逃れたい…。
苦しみだけの世界から逃れたい人々の声…。
それら心の隙に付け入り、ウタを利用して、今またトットムジカが復活した…!
ウタの暴走とトットムジカを止めるには、夢の世界と現実世界、同じタイミングで攻撃しなければいけない。
が、ルフィたちも海賊も夢の世界。
海軍も夢の世界。海軍が海賊と共闘する…?
現実世界は誰が…?
いた。
シャンクス率いる赤髪海賊団。
娘の危機に駆け付けてきた。
ルフィたち、シャンクスたち、海賊たち、そして海軍も。
世界を救う為に。
ウタを救う為に。
一見捻った設定のようだが、夢の世界と現実世界の交錯はよくある。最近ようやく見た『鬼滅の刃 無限列車編』然り。と言うか、所々それを思わせた。
ヒロインがまさかのヴィラン…と書いたが、やはり巨悪は存在し、結果的にヒロインを救う。皆が一丸となって。少年ジャンプらしい王道。
音楽と絡めたバトルは迫力充分。
ファンからは激しく賛否両論。シャンクスの出番が少ない、ルフィが主役じゃない、ウタが主役、ほとんどAdoのMV、こんなの『ONE PIECE』じゃない…。
シャンクスの娘とされているウタだが、実は…まあ予想通り。完全な本作のオリキャラ。その取って付けたようなキャラ像にも…。
まあ、これだけ長い人気の作品だから賛否の声が出るのは仕方ない。人気作の宿命。
個人的には『~Z』ほどではなかったが、『~STAMPEDE』『~GOLD』よりかは面白かったかな。依然自分的『ONE PIECE』映画一番は『エピソード・オブ・チョッパー』だけど。
ミュージック・シーンの多さもファンの間では賛否両論。
ウタの“声”の名塚佳織と“歌”担当のAdoが別人過ぎて違和感。まあ、Adoの歌声には圧巻だけど。
主題曲“新時代”はいつぞやの“紅蓮華”のように耳にタコくらい聞いたが、何だかんだ魅力的な楽曲だ。
他にも凄みのある曲や心に訴える美しい曲など、聴き応えはたっぷり。
だからAdoのMVなんて言われているが、そんなの、うっせぇうっせぇうっせぇわ!(←これが言いたかっただけだったりして…)
争いも無く、永遠に平和な世界。
悩みも苦しみも無く、永遠に幸せに暮らせる世界。
でもそんな世界で、素晴らしい歌を聴いても心に響くだろうか…?
この悩みや苦しみや不条理が絶えない世界。
そんな世界にこそ、歌は必要だ。
心に響き、聴く者を魅了する。勇気をくれる。感動させる。
この現実世界で、我々が目指す理想の“新時代”へ旅立たせてくれる。
それが、ウタノチカラ。