「完璧なお祭り映画+現代的なテーマ」ONE PIECE FILM RED 加藤プリンさんの映画レビュー(感想・評価)
完璧なお祭り映画+現代的なテーマ
お恥ずかしながら、ワンピースという作品は、私の中ではチョッパーが巨大化したあたりで止まっていてw
その後は、せいぜいワンピース歌舞伎でお世話になったくらいです。
今回、観てみようと思ったのは、やはり興行成績ですね。
これほど話題になっているのですから、仕事や営業でも話題にできるでしょうというスケベ根性と、
最近のワンピースはどうなってるんだ的興味で鑑賞致しました。
結論から申し上げますと、綺麗な絵、素敵な音楽、ワクワク&感動という、お祭り映画に求めるすべてが詰まっている作品でした。
敵、味方含め、それぞれの得意技や個性が輝き、映画特有の、敵味方入り乱れて協力する様は近頃 忘れていた感覚で
とてもワクワクしました。アンパンマンなどでも、劇場版では、ばいきんまんと共闘したりしますよね。お祭り映画として、とても素晴らしい要素です。
絵作りも、音楽も、とても良かったですね。
シャンクス(フェニックス一輝のように登場する)はとても卑怯ですね。まさかのシャアと同じ声とは知りませんでした。
あのシャアの持つ、安心感と危うさをバックボーンに、シャンクスというキャラクターを演じることについて、とてもアドバンテージがあります。(損している要素もあります)
また この作品の人気の秘密は、ルフィとシャンクスという、「ふたりの主人公」なのですね。
この、ふたりから別々の形に愛されたウタというキャラクターとのドラマが、悲劇性とヒーロー性が二重構造で描かれます。
この構造は秀逸ですね。どの世代、どの角度へも刺さるように計算されています。
(同様に、ウソップの戦う様が父親(?不勉強で申し訳ない)と重なり、そこから皆が戦略的に動き出し、勝利へ導かれる構造も、とても良いですね)
ウタというキャラクターの持つ先天的な優性ゆえの悲劇性、テーマはとても良いです。
音楽面でいえば、Ado氏の持つ凶暴性、狂気性がとても良く活かされており、作品に厚みと説得力を添えます。劇伴を超えて、音楽が作品をリードする面もあり、優れていると感じました。
これは新しい試みとして、成功しています。とても良いですね。
そしてテーマ性ですが、私は、拝見して、大友克洋氏参加作品「メモリーズ」の最初のエピソード「彼女の想いで」を思い起こしました。
あの作品も、理想とするユートピアが実は人間にとってディストピアでしかなく、どれほど辛くても、理想郷より現実に帰還せよというメッセージ性の作品でした。
この作品における「新時代」というキーワードを、頭で考える理想のユートピアとするならば、
作品のテーマは古い価値観に基づいた、現実へ回帰する古臭いテーマに帰結します。(メモリーズの時代から進歩していない、古いテーマの作品という評価になります)
しかし、文字通り、「新時代」をこれまでの時代や価値観に基づかない、新たな理想を掲げる価値観とするならば
この作品は、残念ながら、それが叶わない現実である(世界を牛耳ってい5人の会議がすべて 男性であり、老人で構成されている閉塞的な世界)ことを含め
とてもとても残酷な現実を突き付けてくれます。
この作品が受け入れられ、高額な興行収入を得ていることが なによりの証拠で
既存の価値観賛歌の作品が、令和の現代において評価され、新時代の理想が叶わないのは
とても現代性があり、作品のテーマとして優れている作品だと感じました。
どちらの解釈の「新時代」であれ、この作品にとって、敗北なのです。
私は期待しています。
この敗北の先に、新しい時代が訪れ、新しい価値観の生まれ、受け入れられる未来がある。
その未来を感じさせる作品でした。とても良かったです。