「悪い意味で「何も考えずに楽しむ」ための映画」ONE PIECE FILM RED 南野コミチさんの映画レビュー(感想・評価)
悪い意味で「何も考えずに楽しむ」ための映画
「歌」に過大な力を持たせるのは映画では無理だと思うのですが、みなさん、どうでしょうか?
ワンピースの映画を劇場へ観に行くのは、おそらく「ねじまき島」以来です。原作は単行本を最低でも各巻5回くらいは読んでいますし、ここ最近はワンピースのためだけにジャンプ本誌を電子で購入しています。
映画も「ストロングワールド」以降すべて一度は鑑賞しています。
「RED」ということでシャンクスや赤髪海賊団周りが描かれるのかな、という期待のもと公開初日の一番早い8時20分の回、映画館へやってきました。
結論として、決して誉められるような作品ではありませんでした。
かといって、悪様に罵るような駄作でもありません。
加点方式だとあまり加点するような場所が見つけられないけれど、減点するような場所もまたそれほどはない、そんな映画です。
良い点としては、赤髪海賊団の活躍や彼らと麦わらの一味が共闘する展開など、「わあ!!」となるような部分がないわけではありませんでした。特にヤソップやラッキー・ルウの戦闘は原作でも描かれていない部分で「ラッキー・ルウ、お前、そんな肉弾戦車みたいな技つかうのかよ」と驚いたもんです。
ヒロイン「ウタ」のキャラデザも、また冒頭の彼女のライブシーンも非常に見応えがあるように感じました。
一方の悪い点。
一番感じたのは「歌」に過大な力を期待しすぎです。作中、世界の「7割」が歌の世界に引き込まれた、という説明セリフがあります。これが漫画なら飲み込めますが、実際に我々の耳に聞こえてしまう映画の性質上、そんな明らかにフィクションな設定、納得しにくいです。マイケルジャクソンやビートルズでさえ無理なのに、明らかに無謀な設定だと感じます。この手の設定は『二十世紀少年』や「竜とそばかす姫」でも感じましたが、映画でこのような「世界を変える」みたいな「歌の力」を描写するのは無理だと思います。Adoさんがわるいわけではなく、「実際に歌が耳に入ってしまう」以上、これは避けようのないことです。
これが許されるのは「リメンバーミー」みたいな規模感の話か、「ボヘミアンラプソディ」や「ジュディ」のように歌い手その人自体に共感させ感情移入させた場合だけではないでしょうか。
ヒロイン「ウタ」にあまり魅力を感じないのもこの問題を大きくさせています。確かにキャラクターデザインは非常に可愛らしいのですが、彼女が作中で能動的に変化していくことはありません。ルフィやシャンクスにおんぶに抱っこです。冒頭から登場する「歌が上手くみんなに愛される歌姫」というだけの存在です。
「歌」がテーマなのにウタ以外歌を歌わないのも、個人的にはマイナスポイントになると思います。これでは「歌」あるいは「ウタ」がすごいのでは「ウタウタの実」がすごいだけのように感じてしまいます。
上から一方的に歌を届けるだけの存在。ウタの成長を描くために私は最後、赤髪海賊団のみんなと一緒に「ビンクスの酒」を合唱するような展開の方がグッときたのではないかと、素人意見ながら。
他にも歌唱とキャラクターボイスが一緒なせいで、歌唱中の演技に難がある、とか
麦わらの一味のルフィ以外の面々が物語上必要ない、とか
さまざまあげられるが、一番気になったのはやはり物語における「歌」の扱い方だろう。
ただ決してクソ映画というほどの映画ではない。
「人はいつ死ぬと思う? 人に忘れられた時さ」という言葉があるが、良くも悪くもないこの映画、すぐに内容を忘れてしまいそうな予感はしている。
追記
コピーやヘルメッポがウタのライブに潜入するくらい危険視されていたのに、海軍や五老星はどうしてウタが計画を実行する前に暗殺しなかったんでしょう? 作中に説明ありましたかね? やっぱり五老星は無能。
さらに民間人の犠牲も厭わなかったはずなのに、最後、赤髪海賊団と戦わずに撤退した黄猿や藤虎もちょっと謎