「夥しい数のヴァイオレンス映画へのリスペクトと対抗意識が凝縮した怒涛のワンカット134分に鼻血が出そうになりました」カーター よねさんの映画レビュー(感想・評価)
夥しい数のヴァイオレンス映画へのリスペクトと対抗意識が凝縮した怒涛のワンカット134分に鼻血が出そうになりました
正体不明の集団に銃を突きつけられてラブホテルのベッドで目覚めた男。部屋には夥しい血糊。首の後ろには十字の縫い傷。耳にクロゼットの中にあったスマホを手に取ると謎の女の声が・・・からの134分をワンカットで描写する超絶テクニカルヴァイオレンスアクション。要するに『悪女AKUJO』の冒頭7分間を134分間やってるわけです。もちろん様々なテクニックを使ってカットの継ぎ目をマスキングしているわけですけど、『ザ・ファブル』程度のヌルい和製アクション100本分くらいのアクション要素が数珠繋ぎ、とにかくほとんど静の描写がなく序盤からトップギアで疾走するのでこちらの大脳が物語を処理し切れません。とにかく怒涛の激流に身を任せるしかない。こんな画期的な映画、観たことないです。
まず濃厚なのはイリヤ・ナイシュラーの『ハードコア』に対する露骨なまでのライバル意識。『ハードコア』がやってのけたのは96分間全編POV目線という画期的な手法でしたが、こちらで試みられているのは全く逆のアプローチ、すなわち一体どうやって撮影したのか見当がつかない技術で徹底的に作り込まれた神の視線でひと繋ぎの物語を見つめ続ける。そしてその勢いは『ジョン・ウィック パラベラム』にも牙を剥く。『悪女 AKUJO』で繰り広げられた日本刀で斬り合う画期的なバイクチェイスをより複雑なシークェンスにして導入した『ジョン・ウィック パラベラム』よりもさらに複雑な構成のバイクチェイスに鼻血が出そうになりました。しかしこんな印象はごくごく一部、他に私の大脳を駆け抜けた古今東西のアクション映画はとりあえず思い出せた分だけで以下の通り。
『トータル・リコール』
『ダークシティ』
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
『ワールド・ウォーZ』
『28週後…』
『アドレナリン』
『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』
『インディ・ジョーンズ魔宮の伝説』
『新感染 ファイナル・エクスプレス』
『イースタン・プロミス』
『アトミック・ブロンド』
『ザ・レイド』
『トム・ヤム・クン!』
『アップグレード』
『処刑人』
『ポリス・ストーリー3』etc
ちょいちょいゾンビ映画が混じってる通り、本作、実はゾンビ映画です。バラエティに富んだ作品群への限りないリスペクトと対応心がパンパンに詰まっているのも嬉しいんですが、『レイダース〜』が切り開いた冒険活劇の温故知新から現代アクションまで進化の歴史を見ているかのような感覚に陥る濃厚な味わいはヴァイオレンス映画に慣れていない人は火傷するかも知れません。それぐらい衝撃的な作品をスクリーンで観ることが出来ないなんてもう悔しくて仕方ないです。
しかも恐ろしいことに本作、劇中でばら撒いた伏線を一切回収していません。まだまだ先までやる気なんですよ、『ザ・グリード』のエンディングと同じくらい絶望的な終幕だったのに。