「では今しばらく、先生には生きていていただきましょうか。」大河への道 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
では今しばらく、先生には生きていていただきましょうか。
志の輔師匠の落語版を聴いてから、公開を楽しみにしていたこの映画。正直、落語では、ドタバタ劇に重きを置いていたせいで、なんで「忠敬が死んだことを隠す」必要があるのか上手く伝わってこなかった。映画では「隠す」必死さは伝わってはきたが、それでもなんで忠敬の死が地図作成中止に直結するのか、どうも腑に落ちない。幕府は、忠敬個人に大金を下賜していたのではなく、有益な事業に対して補助金を出していたのではないのか?それなら、代表者がいなくなっても、作業の実直な指揮者がいて滞りなく地図が出来上がるのなら、問題はないのではないか。その疑問がずっと引っかかっていた。
大河ドラマ誘致に奔走する香取市総務課主任の中井貴一の役柄に覚えた既視感は、「最後から2番目の恋」に出てくる鎌倉市観光課課長長倉和平そのままだった。役どころもそっくりなうえに、振り回される真面目キャラまでそっくりだった。まあ、中井貴一がクールな役とコミカルな役をさらりと使い分けができる役者だからいけるのだろうけど。だけど、今60を過ぎた中井貴一が、地方の市役所の主任っていうのはしっくりしない。主任ってせいぜい30代でしょう。年相応にいえばせめて部長クラス。あれで主任じゃ、かつてしくじりをしでかした、仕事ができないオッサンに見えてしまう。
「これは伊能の意志を継いだ高橋景保の物語だな。」ってところで大どんでん返しでズッコケてエンディング、、、と思いきや、「弟子にしてください。」「なるほどそれが主任にとっての第一歩ですか。」ときた。人生の後半なんのその、50を過ぎて歩み出した忠敬になぞらえて、しっかり最後は締めてくる。でもなあ、その志、急な思い付きにも思えた。