劇場公開日 2022年5月20日

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「伊能は、次の間で上様をお待ち申し上げております。」大河への道 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5伊能は、次の間で上様をお待ち申し上げております。

2022年6月17日
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鑑賞方法:映画館

NHK大河ドラマの効力というのは、まだまだ絶大なものがある。地方の町にとって、我が町ゆかりの人物が大河ドラマになる、あるいは大河ドラマに中心人物として登場することは、大河ドラマを観ない人でも嬉しいもの。
千葉県は、それなりに大河に登場する歴史上の人物はいたけれど、ドラマの中心人物にまではなっていないようだ。
大多喜町が本多忠勝の大河ドラマ誘致キャンペーンを張っていたが、ちょっと疲れぎみか。
この映画の中でも、伊能忠敬よりは本多忠勝か里見八犬伝…みたいな台詞があった。

立川志の輔の新作落語は未観賞だが、目の付け所がよいと思う。

中井貴一が落語を聞いて映画化したいと考えた根底には、時代劇への愛情がある。
現代に受け入れられ易い時代劇映画に仕立てられると感じたようだ。
そう言われるほど時代劇が衰退しているわけではなく、意外と新作時代劇は公開されていて、それなりの成績をあげたりはしているのだが。
企画として参画した中井貴一が脚本をオファーした森下佳子は、テレビドラマ界ではヒットメーカー。
彼女は初期段階で辞退を申し入れたらしく、その理由が「伊能忠敬の人生は大河ドラマになる」と、いうのだから面白い逸話だ。

本作はハートウォーミングコメディーとして、極めて善良な映画だと思う。
現代編と江戸時代編を二重配役で同一キャストが演じ分ける趣向も良い。
芸達者な役者陣だが、何をおいても中井貴一のコメディアンぶりに尽きる。
例えば、雨の中で傘をさして門扉の呼び鈴を押す場面。雨の雫で濡れた指をピッピッと払う仕草がさりげなく可笑しい。
こういう芸ができる貴重な俳優なのだ。
松山ケンイチとの掛け合いも息があっていた。

江戸時代編のクライマックスは、将軍への地図のお披露目である。
大広間に広げられた「大日本沿海輿地全図」を空中からなめるように見せるCG映像が、それまでに地図を筆で手書きする繊細な仕事を見せているから、感動的だ。
そして、伊能忠敬は既に亡くなっているという告発を受け、中井貴一演じる高橋景保が将軍の面前に伊能忠敬の代わり身を示すアイデアと、それに呼応する徳川家斉(草刈正雄)の台詞には不覚にも泣いてしまった。

香取市佐原にある「伊能忠敬記念館」に行ってみて知ったのだが、地図の完成まで伊能忠敬の死を隠蔽し続けたというのは周知の史実で、裏歴史という訳ではないようだ。
高橋景保が、シーボルトに地図を渡した罪で投獄され、獄死したという史実の方が、映画を観た後で知ったこととしては驚きだった。

kazz
はなもさんのコメント
2022年6月19日

こんにちは。
 中井貴一、時代劇に愛情がある‥ 同感でーす😍

はなも
CBさんのコメント
2022年6月19日

> 伊能は、次の間で上様をお待ち申し上げております
ホント、いいセリフでしたねえ。

> 高橋景保が、シーボルトに地図を渡した罪で投獄され、獄死したという史実の
へええ。そりゃまたびっくり!!

CB