「聾者と聴者の絆の在り方とは」コーダ あいのうた リタさんの映画レビュー(感想・評価)
聾者と聴者の絆の在り方とは
「coda」と聞けば音楽記号が連想されるが(もちろん本作品ではこちらの意味も含まれているだろう)、ここでの「coda」とは「Children Of Deaf Adults」の略語であり、耳の聞こえない両親に育てられた子どもをさす。
主人公のロビーは幼いころから漁師をしている家族の耳となり、周りとのコミュニケーションの手助けをしてきた。
高校の新学期、合唱クラブへの入部を期に歌の才能を見出されたルビーは、名門音楽大学の受験を薦められる。
しかし彼女の歌を聴くことができない家族は、素直に応援することができない。
子ども大切に思いながらも、彼女に依存してしまう両親と、彼女が家族の犠牲になることに怒りを感じる不器用で優しい兄。性に奔放だが、周りから浮きがちなルビーを気に掛ける友人。
ルビーを取り巻く人々も魅力的で、作中において彼女の境遇や心情を描き出す存在となっている。
特に家族を耳の聴こえない俳優が演じているだけあって、手話でのコミュニケーションがスムーズで、細やかな表情の変化も非常にリアリティがあった。
ルビーを演じるエミリア・ジョーンズの歌声も、パワフルさもありながらどこか切なく、随所で心打たれた。
「Both Sides Now 」
聴者である自分と、聾者である家族。
お互い大切に思っているが、どこかわかりあえない。
音楽大学の受験に反対したのも、彼女の歌声を聴くことができないために才能を信じ切れず、彼女が失敗することが怖かったから。
家族は自分たちのことしか考えていないと思っていたが、本当は自分のことを何より大切に思ってくれていたのだ。
この曲は、ルビーが本当の意味で家族の愛に気づくきっかけとなっただろう。
家族から自分への愛と自分から家族への愛。
そのどちらも真実なのだ。