「ユーモアと泣き笑いの感動作」コーダ あいのうた しゅなさんの映画レビュー(感想・評価)
ユーモアと泣き笑いの感動作
聾唖者の家族の中で唯一の健聴者である17歳のルビーは早朝3時に起きて父と兄の漁を手伝い、漁を終えて学校へ通う毎日。
そりゃ授業中に居眠りもするし、服は魚臭かったりするさ。
いじめや障害に対する偏見の中、自分だけの秘密の場所で歌う事が唯一の楽しみ。
合唱指導の教師にその才能を見出されるまではバークリー音楽大学の存在すら知らなかった。
漁を終えて学校へ向かおうとする娘に父が「今日は病院の日だから忘れるなよ」と手話で伝える。
始まってすぐ、えっ、この環境で誰かが病気なんて可哀想すぎる。と思ったら、なんとそこは父の泌尿器科。
感情たっぷり症状を説明する父、『性病です』と病名を説明する医師、その通訳は娘。
普通の女子高生はまず経験しない日常。
声を出して笑ってしまうシーンには必ず父がいる。
この、無骨なお父ちゃんがめちゃくちゃいいのです。
演じるトロイ・コッツァーは今年度アカデミーの助演男優賞にノミネートされいる。
彼は同じ聾唖のマーリー・マトリンの『愛は静けさの中に』での演技に憧れて俳優を志したのだそう。
『愛は静けさの中に』を当時劇場で観た私としても嬉しいエピソードだ。
ホントに当時のマーリーの演技は美しくてどこか荘厳ささえ感じた。
そのマーリーと夫婦役を演じるなんて、トロイにとっては夢のようだっただろうな。
歌う事が大好きなのに、その喜びも自分の歌声も両親には伝えられない。
自分がいなければ家業も続けられない。
初めて見つけた自分の夢と家族の生活の狭間に悩み苦しむルビー。
終盤の数分間の無音の時間。
音のない静寂の時間が、この映画の全てを物語っている。
最高に楽しくて切なくて、愛が詰まった作品。
感涙ポイントが何度もやってくるので鑑賞の際はティッシュ必須ですのでご注意を。