「可笑しくも素晴らしい家族と、躊躇しながらも思い切って外へ踏み出そうとする少女の一時を追った人間賛歌。」コーダ あいのうた kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
可笑しくも素晴らしい家族と、躊躇しながらも思い切って外へ踏み出そうとする少女の一時を追った人間賛歌。
オリジナルのフランス映画『エール!』は未観賞。
両親と兄は聴覚障がい者で、主人公の歌を聴くことができない。
映画の終盤、合唱クラスの発表会に出向いた彼らは、主人公がステージで歌う声を周囲の観客たちの表情から想像する事しかできないでいた。
帰宅後、父は自分のために歌ってくれと娘に頼む。歌う娘とその頬や喉に触れて歌を感じようとする父。ここまでに両親の破天荒ぶりを見てきたので、このギャップある父の姿には胸が熱くなる。
このシークェンスは、音楽大学のオーディションというクライマックスへ物語を展開させる重要なターニングポイントだ。
主人公は、そのオーディションで家族のために圧巻の歌唱を披露するのだ。
この映画は、特殊な家庭環境にある少女と、それゆえの障壁の物語ではある。
だが彼女が、恋に憧れ、家族の無理解に悩み、周囲の誹謗中傷に憤り、好きなことに情熱を傾け、夢に向かって進もうとする普通の女子高生なのだ。
主演のエミリア・ジョーンズが、この多感で逞しい少女ルビーを瑞々しく演じていて、輝いている。歌も吹き替えなしのようだ。
ルビーの家族を演じているのは実際に聴覚障がいのある役者たちだという。凄い人たちがアメリカの芸能界にはいるものだ。
母親役はマーリー・マトリンだった。『愛は静けさの中に』以降も女優を続けていたとは、知らなかった。
父親が家族団らんの食卓で、母親が若い頃ミスコンで健聴者を押し退けて優勝したと自慢する。そりゃそうだろう、20歳の頃のマーリー・マトリンは本当に綺麗だった!
「また始まった」と、ルビーは呆れる。
ルビーが音楽教師の個人授業を受けるようになったことを家族は知らず、両親がルビーに頼み事をしたために個人授業に遅刻してしまう。教師からは二度と遅刻するな、時間を無駄にするな、と厳命されていたにも拘らずだ。教師に厳しく突き放された時、ルビーが「家族と共にいなかった経験がない」と吐露する場面が切ない。彼女の行動基準は常に家族だったのだ。
また、家族の漁船がトラブルに見舞われ、ルビーが通訳として乗船しなかったことを原因の一つにされた時の「私の所為なの?」という主人公の叫びも切ない。父親は「来られないといってくれれば通訳を他に頼めたのに」と言う。正論だ。親に断らずに遊びに行く、ハイティーンならごく普通の行動を今までの彼女はしてこなかったのだろう。
ルビーは発音がおかしいと同級生たちから笑われた経験を持つ。
歌が好きだが、一番身近な家族から評価を聞いたことがないので、人前で歌うことが怖い。
そのガチガチの殻を剥がしていく音楽教師の指導がユニークで熱い。
幼い頃から家族の通訳を務めることが当たり前として育った少女に、家族も頼ってきた。
だが、この家族は互いに支えあうと共に思いやって生きている。ふざけあって、いがみあって、恥ずかしい思いをしても、強い絆で結ばれた家族の姿は美しい。
夢を諦めようとするルビーに、兄が「家族の犠牲になるな!」と言う。
母親が、ルビーが生まれたとき“聞こえる”ことが分かって悲しかったと言う。「解り合えないと思ったから」
今思い出しても目頭が熱くなる…
kazzさん、本作アカデミー賞受賞しましたね✨
なんだかんだで賞を取ると作品寿命も延びて多くの方に観てもらう機会も増えるので、本作の1ファンとして嬉しい限りです🙌
本当に。実際の聴覚障がい者が役やるのだからすごい国ですね。
私も含めて日本では障がい者を守るものと考えているので、なかなか難しいですね。
アメリカでパラリンピックを観戦したことがあって、私は「障がい者なのに頑張ってる」と感動したものです。それ自体が差別とは思いも知らなかったです。
コメントありがとうございます。
あんな綺麗な女性と心通わせたいという動機があれば、手話の勉強も苦じゃないですね。
この素晴らしいレビューを拝読してたら、また思い出し泣きをしそうになりました。