「新たなる運命」デューン 砂の惑星 PART2 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
新たなる運命
まだコロナ禍だった2021年、多くのハリウッド大作の公開が延期になる中公開された前作『DUNE/デューン 砂の惑星』は、劇場大スクリーンでスゲー映画を観たいという渇望を存分に満たしてくれた。
フランク・ハーバートの壮大で複雑なSF小説を鬼才ドゥニ・ヴィルヌーヴが映画化。
スケール、迫力、ビジュアル、重厚さ…どれを取っても見事で、『デューン』映像化の決定版と言って過言でもない。アカデミー賞で技術部門大量受賞は当然。
先日のアカデミー賞で『ゴジラ -1.0』が視覚効果賞を受賞し(超ブラボー!!)、低予算でもクオリティーの高い映像を作れる事を証明し、ハリウッドの予算肥大に一石を投じたが、高額予算はこういう作品の為にという事を本作は見せ付けてくれた。
開幕、画面いっぱい拡がる砂の地。SFギミック。響く音、音楽。
これら前作でも経験しているのに、またまた開幕から遠い未知の惑星に目と心は誘われる。
静かな幕開けながらものっけから前作超えの意気込みを感じ、展開していくにつれそれは確信に至っていく。
圧倒された前作はただの前菜にしか過ぎなかった。
画面映えし、魅了すらされる広大な砂漠。映像の力。
目を見張るVFX、ビジュアル。技術の力。
身体にまで響く音響。音の力。
耳から離れないハンス・ジマーの音楽。音楽の力。
全てから映画の力というものをまじまじと感じた。
現代ハリウッド史上最高レベルの力であると共に、作品というより一つの世界を創造したヴィルヌーヴの力そのものである。
今回、全編IMAXカメラでの撮影。それに適した映像も音響もいい最良の設備でのシアターで本来観るべき。いや、観たかったのだが、地元の映画館は通常普通のスクリーンで、吹替のみの上映。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の時もそうだったが、その映画の価値を分かっているのか疑問である。
がっかりしたのは地元の映画館だけの事で、こんな低設備でも作品の力は感じられ、作品自体は更なる高みや次元へと達した。
ヴィルヌーヴ創造の『デューン』は世界観や技術力が見もので醍醐味である事は確かだが、その深淵なドラマこそ見るべきものがある。
砂の惑星、アラキス。通称“デューン”。
砂は香料(スパイス)として、それを巡る利権も激化。
皇帝の命を受け、アラキスの新たな領主に着任したアトレイデス公爵だったが、皇帝と前領主ハルコンネン男爵の陰謀により暗殺。
唯一生き延びた息子ポールと母ジェシカは、砂漠の民フレメンと行動を共に…。
…という所で前作は終わり、気になるその後。
皇帝やハルコンネン家との決着、ポールの運命。
度々予見してきた通り、彼は救世主リサーン・アル=ガイブなのか…?
前作ではまだ世間知らずの若君だったポールだが、過酷な悲劇と試練が彼を変えていく。
自分はよそ者か救世主か、その葛藤。
超巨大サンドワーム乗りは映像のド迫力と共に圧巻。
やがて皆を率いる逞しさ、頼もしさ。
ティモシー・シャラメの魅力と演技力の賜物であり、本当に彼がこれからハリウッドを背負って立つ事を象徴しているかのよう。
フレメンの新たな教母となったジェシカ。レベッカ・ファーガソンのミステリアスな存在感。
リサーン・アル=ガイブを信じるハヴィエル・バルデム、再会を果たしたジョシュ・ブローリン。
続投組の中でもゼンデイヤの役回りは大きくなった。ポールと愛を育み、戦士として彼女もまた過酷な運命に翻弄されていく。チャニのドラマでもあった。
スパイスの全掌握を目論むハルコンネン家。
が、ポールらによって幾度も阻まれる。
男爵は甥ラッバーンを失脚させ、彼の弟フェイド=ラウサに任を託す。
兄に劣らぬ残忍な性格で、新参加オースティン・バトラーが怪演。
そのバトラーと陰湿なステラン・スカルスガルドの板挟みとなり、何だか今回デイヴ・バウティスタにちと同情。
皇帝クリストファー・ウォーケン見参。その皇女フローレンス・ピューも印象的。
今旬、注目株、実力派、ベテランの豪華キャスト。
奏でるアンサンブル熱演はまるで古典劇を見ているかのようで、『スター・ウォーズ』や『アバター』にはない見応え。
アトレイデス家とハルコンネン家のある因果には驚き…!
御家を滅ぼされた若き跡継ぎが敵に復讐する。
大まかにはそうだが、単純にそうではない。
フレメンのリサーン・アル=ガイブであり、ベネ・ゲセリットの超能力者クイサッツ・ハデラッハとしても覚醒したポール。
交錯する幾つもの運命。彼は彼自身なのか、救世主なのか、予見者なのか、宇宙の新たな統治者なのか。
ジェシカの思惑。
ポールを信じるスティルガーやガーニイ。ポールを愛するチャニ。
皇帝に忠誠を尽くすハルコンネン男爵だが、あわよくばその座を狙う。フェイド=ラウサも虎視眈々と。
皇帝もさらなる全宇宙の掌握を。
ベネ・ゲセリットの教母や皇女イルーランはフェイド=ラウサを利用しようと…。
各々の思惑や目論見が複雑に絡み合う。
そしてそれが、善悪白黒はっきりではない。
各々の立場もそうだがポールにしても、自身の予見や運命が、それが果たしてアラキスの民を解放する為のものか、新たな争いと悲劇の火種になるか、全宇宙の平和や自由に繋がるのか。
核や現実問題を報復させる争いなどヒヤリとさせられる。
クライマックス、ポールは死闘の末にフェイド=ラウサを倒し、皇帝をその座から引き摺り降ろす。
新皇帝、ポール・アトレイデス。
だが、そこにカタルシスや爽快感はない。
また新たな闘いへ…。
ラストシーンのポールを案ずるチャニの顔が忘れ難い。
PART2で終了と思われたが、ヴィルヌーヴはPART3も構想。
妥当だろう。続きが気になってた仕方ない。
ジェシカが語りかける未来の妹(あの人気女優!)、フェイド=ラウサとイルーランの間の子。
PART3のベースとなる原作小説の概要をちらっと読んだが、新皇帝ポール忍び寄る脅威…。
ポールの運命、皆の運命、宇宙の運命…その行く末は誰にも分からない。
分からないからこそ、このドラマチックでエモーショナルな物語に引き込まれてしまうのだ。