「若い人にも関心を持ってもらえれば」ゴヤの名画と優しい泥棒 悶さんの映画レビュー(感想・評価)
若い人にも関心を持ってもらえれば
【鑑賞のきっかけ】
この作品は、公開前から気になっていたのです。
公式HPによると、1961年、ゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗難に遭い、その犯人とされたのは、60歳のタクシー運転手、ケンプトン・バントン。年金生活者を少しでも楽にしようと、盗んだ絵画の身代金で公共放送(BBC)の受信料を肩代わりしようと企てたのだ。とあります。しかも、実話をベースにしているという。
そろそろ、劇場公開も終わりそうな時期になっていましたが、久々に劇場に足を運ぶこととしました。
【率直な感想】
<日本人にとって身近なテーマ>
劇場に足を運んでみると、年配の方ばかりで、若者の姿はありませんでした。
主人公の夫妻が高齢だからか?
でも、「受信料」で賄う公共放送という点で、BBCはNHKと類似しています。
この受信料を、受信設備があれば徴収するというシステムを巡っては、日本のNHKについても昔から議論があり、身近なテーマなのではないか、と感じています。
物語の始めの方で、主人公のケンプトン・バントンは、受信料不払いを理由に捜索に来た公的機関の職員に、「このテレビは、コイルを抜いているので、BBCは映らない」と説明するも、逮捕され、刑務所に入れられてしまいます。
これは、昔から日本でも、「うちは、テレビは確かにあるけど、NHKは観ていない。だから、受信料は払わない」と主張する方がいて、論法はよく似ていますね。
この受信料の問題に一石を投じた人物が、1960年代のイギリスに実在したという本作品を、私は興味を持って鑑賞しました。
因みに、日本のNHKに受信料免除はないのか確認すると、特別にセイフティーネットを必要とする方々の免除制度はあるようですが、「年金生活の高齢者」というだけでは、免除はないようですね…。
<中盤以降からは、法廷ミステリ>
冒頭、ケンプトン・バントンの裁判が開かれるシーンで、物語はスタート(予告編の冒頭もこのシーンです)。
すぐに、ゴヤの名画盗難事件の前に場面は遡り、ここから、先述の受信料不払いのエピソードなどを経て、中盤以降は、関係者が傍聴席で見守る中、ケンプトンが法廷で裁かれていく様が描かれていきます。
実は、この法廷シーンの直前に、ミステリ風の意外な事実が明かされ、ミステリ好きとしては、興味を持って鑑賞することが出来ました。
そして、最後は、「法廷ミステリ」の定番、陪審員の下す評決へ。
「有罪か?無罪か? Is he guilty or not guilty?」
この部分、人により評価は様々でしょうが、私は、さすが映画になるだけのことはあるな、と感心しました。
【全体評価】
この作品、全体的にコミカルな描き方をしていて、ケンプトン夫妻の会話は軽妙だし、法廷シーンでも、ケンプトンのユーモア溢れる証言に、裁判所が笑いに包まれたりする。
でも、夫妻には、ひとつ、大きなトラウマがあって、このトラウマへの取組み方の違いから、すれ違いが生じる、シリアスなシーンもあります。
このように、ユーモアとシリアスを絶妙のタイミングで描いていく物語展開は観る者を飽きさせないと思います。
本作品は、ロジャー・ミッシェル監督の最期の長編映画作品となりました。
こんな素晴しい作品を遺してくれた彼に、哀悼の念を捧げます。
はじめまして。琥珀糖と言います。
レビュー読ませていただきました。
素晴らしいレビューですね。
沢山の方に読んでもらいたいレビューです。
犯人についてもトリックがあり、お父さんよくぞ法廷で騙しおおせましたね。
悶さんのレビューを読めて本当に良かったです。